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製品を開発するときに作成すべき契約と規程は何?弁護士が解説!知財戦略のイロハ(3)(3/3 ページ)

本連載では知財専門家である弁護士が、知財活用を前提とした経営戦略の構築を図るモノづくり企業が学ぶべき知財戦略を基礎から解説する。今回は開発を進める上で必要となる、知財に関連した契約、規程に関する注意点を取り上げる。

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共同研究開発時は製品ライセンスの扱いに注意

 最後に(3)共同研究開発契約を行う場合を取り上げます。他社と共同研究開発を行う場合、成果物の権利や利用関係をいかに設定するかが非常に重要なポイントになります。特に成果物に関する知的財産権を共有するか否かは慎重に検討すべきです。なぜなら、特許権を共有する場合、当該特許発明の実施は契約で特段の制限をかけなければ各共有者が自由に実施できる(特許法73条2項)ものの、当該特許ライセンスは共有者の許諾がなければ原則としてなし得なくなる(特許法73条3項)からです。

 そのため、例えば自社製品の製造、量産の全部または一部を第三者に依頼するにあたり、当該第三者に共有特許をライセンスする必要が生じた場合、共有権者からライセンスの許可を取らなければならず、決裁に時間を要することで事業のスピードが低下する、あるいは、そもそもライセンスの許可が下りず計画が頓挫するといった可能性も否定できません。

 以上を踏まえ、特許権(あるいは特許を受ける権利)の自社への単独帰属を主張する場合には、相手方企業には無償の通常実施権*12)を設定することが必要になるケースは多いですが、この実施権を独占化してしまうと、新製品に用いた技術の他業種への横展開の可能性を狭め、自社事業の市場拡大に悪影響が生じる恐れがあります。他方、自社が第三者に自由にライセンスや販売ができるとすると、成果物が相手方企業の競合企業に使用されかねないとの懸念を共同研究先の企業が持つ可能性もあります。これらを踏まえて、相手方企業とは「特定領域において、一定期間の独占的通常実施権を設定する」ことが現実的な落としどころになると考えられます*13)

*12)独占的ではないライセンス。相手方企業のグループ会社や、具体的に想定されるライセンス先がいる場合には、サブライセンスを行う権利を相手方企業に留保させることも考えられる。

*13)過度の制限は独占禁止法違反のリスクも生じうることに留意したい(「共同研究開発に関する独占禁止法上の指針」)。

小括

 今回は、主に知財面から新製品の開発にあたっての留意点をご紹介してきました。次回は、製品完成後の留意点を主に知財の観点からご紹介していきます。

筆者プロフィール

山本 飛翔(やまもと つばさ)

2014年3月 東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了

2014年9月 司法試験合格(司法修習68期)

2016年1月 中村合同特許法律事務所入所

2018年8月 一般社団法人日本ストリートサッカー協会理事

2019年〜  特許庁・経済産業省「オープンイノベーションを促進するための支援人材育成及び契約ガイドラインに関する調査研究」WG・事務局

2019年〜  神奈川県アクセラレーションプログラム「KSAP」メンター

2020年2月 東京都アクセラレーションプログラム「NEXs Tokyo」知財戦略講師

2020年3月 「スタートアップの知財戦略」出版(単著)

2020年3月 特許庁主催「第1回IP BASE AWARD」知財専門家部門奨励賞受賞


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スタートアップの皆さまは拙著『スタートアップの知財戦略』もぜひご参考にしてみてください。


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