なぜロボットにクラウドが必要なのか?:クラウド×ロボットの現在(1)(2/3 ページ)
クラウドを活用してロボットの開発や運用、管理を行うクラウドロボティクス。連載第1回ではAWSのシニアアーキテクトがクラウドロボティクスの現状やAWS RoboMakerの紹介を行う。
社内ネットワークのアクセス制限問題
国内の大企業を訪問すると、社内ネットワークから外部のリソースへのアクセスに一定の制限をかけているという企業を頻繁に目にします。なかには社内ネットワークからAWSのマネジメントコンソールにアクセスすることすら困難という企業もありました。
言うまでもなく、こうした状況はクラウドロボティクス開発に携わるエンジニアにとって不便な状況です。もっとも、アジア太平洋地域に本社を置くとある企業を訪問した際も同じ状況に遭遇しましたので、こうした状況は日本に限った話でもないのでしょう。
一方で、メインのネットワークにはアクセス制限をかけるものの、開発者向けには別ネットワークのような形でインターネット回線を整理することでエンジニアが抱える「不便さ」を解消しようとする企業の話もよく耳にします。私は日本的なイノベーションはいろいろなものを取り入れ、吸収し、そこから新しい組み合わせを作り出すことで生まれるように思いますので、エンジニアがなるべく多くの情報に触れ、アイデアを試す機会が確保されることを是非期待したいところです。
通信遅延やクラウドの運用管理が課題
さて、先に述べた通りaiboに代表されるコンシューマー向けロボットの開発においては、クラウドは積極的に利用が進んでいます。将来的に5Gネットワークが整備されていく中で、この流れがますます加速していくことは間違いなさそうです。加えて、農業などロボットの導入が期待されている領域でもクラウド利用は積極的に検討されています。
ただし、クラウドは万能ではありません。課題の1つが通信遅延の問題です。移動型のロボットの場合、エレベーターや立体駐車場といったネットワークがつながりづらい場所に移動することもあるでしょう。しかし、数msのリアルタイム性が求められる現場ではネットワークの遅延は致命的な問題になる可能性があります。また、クラウドの運用管理も一考すべきポイントです。サーバの保守管理などはAWSなどのクラウドサービスを利用すれば自前で行う必要はなくなりますが、依然としてクラウド上に構築したシステムの保守、管理を誰が、どのように行うのかについては状況に合わせて考える必要があります。
こうした課題はありつつも、クラウド上で常に最新の内容に更新されている大容量データにロボットがアクセスできる点を大きな魅力と感じる企業も多くいます。クラウドを使えば、負荷の高い計算処理をクラウドで実行し、実行結果を複数地点にある複数台のロボットに展開するということも簡単に実現できます。私がこれまでお会いした企業の多くは、センサーデータなどをクラウドに送り、ロボットの管理や異常検知、不具合の予測やデータを視覚化するといった目的でクラウドを活用しようとしていました。またクラウドからの指令を受けてロボットが特定のアクションを実行する仕組みを構築している企業もあります。
いずれの場合も共通していたのは、ロボットの稼働に必要な全ての処理をクラウドで行おうとしていない、ということです。クラウドで行った方が効率の良いところや、システムと連携する必要があるところにまずクラウドが活用されています。総合的な判断が要求される処理はクラウドで、移動ロボットの衝突回避処理など反射的・直感的な判断が要求される処理はロボット本体で行うという具合に、必要に応じて役割を分担させていくのが今後のクラウド利用における方向性の1つかと思います。
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