3次元組織学による全臓器、全身スケールの観察技術を確立:医療技術ニュース
理化学研究所らは、組織透明化技術と組み合わせて利用できる全臓器、全身スケールの3次元組織染色、観察技術「CUBIC-HistoVIsion」を確立した。臓器および全身スケールでの生体システムの理解の向上などに貢献する。
理化学研究所は2020年4月27日、組織透明化技術と組み合わせて利用できる全臓器、全身スケールの3次元組織染色、観察技術「CUBIC-HistoVIsion(CUBIC-HV)」を確立したと発表した。臓器、全身スケールでの生体システムの理解や、臨床病理学検査の3次元化による診断確度、客観性の向上に貢献する。同研究所生命機能科学研究センター チームリーダーの上田泰己氏(東京大学大学院 教授)らの研究チームによる成果だ。
研究チームは、まず組織がどのような物質として定義できるかを検討した。生体組織の物理化学的物性を調べたところ、生体組織、特に透明化処理を行った組織が主にタンパク質によって構成される電解質ゲルの一種であることが明らかになった。この結果は、1980年代に得られた知見の再発見だ。
次に、生体組織ゲルを模倣した人工ゲルを用いて、どの染色条件が3次元染色に影響するかを定量的に評価できるスクリーニング系を構築した。その結果得られた3次元染色の必須条件を組み合わせて、理想的な3次元染色プロトコルをボトムアップにデザインすることに成功。このプロトコルをCUBIC-HistoVIsion(CUBIC-HV)と名付けた。
さらに、CUBIC-HVと高速ライトシート顕微鏡「GEMINIシステム」を組み合わせ、約30種類の抗体や核染色体を用いてマウス全脳、マーモセット半脳、ヒト脳組織ブロックなどを染色し、イメージングした。また、幼若マーモセット全身を細胞膜非透過型の核染色剤で丸ごと染色し、3次元イメージングすることにも成功した。
これまでの3次元染色プロトコルは経験則に基づいていたが、幅広い染色剤や抗体に適用できるものではなかった。その理由としては、染色系の複雑な物理化学的特性が原因と考えられていた。そのため、理想的な3次元染色プロトコルを設計するためには、生体組織の物理化学的特性など染色系環境の解明が必要だった。
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