火花のエネルギーで金属を非接触加工する「放電加工」の技術:ママさん設計者が教える「設計者のための部品加工技術の世界」(6)(3/3 ページ)
設計者でも知っておくべき部品加工技術をテーマに、ファブレスメーカーのママさん設計者が、専門用語を交えながら部品加工の世界を優しく紹介する連載。最終回となる第6回は、「放電加工」について取り上げる。
ワイヤ放電加工
加工したい形状に合わせた電極を作る型彫り放電加工に対して、ワイヤ放電加工では、電極用ワイヤを加工機に仕掛けて使用します。このワイヤの多くは真ちゅう製で、細いものではΦ0.05、太いものでもΦ0.3程度と極細のものが使われます。ワイヤ放電加工の原理も他の2つの放電加工と同じで、電極ワイヤと加工物との間に電圧をかけて火花を起こして、その熱エネルギーによって加工していきます。ワイヤ放電加工は「切断」において非常に効率の良い加工で、エンドミルでは刃長が足りなくてできない「深くて狭いスリット加工」にも対応可能です。
ワイヤ放電加工では、まず、フライス盤や細穴放電加工機によって開けられたスタート穴に向けて、上から下へワイヤを通します。穴を通ったワイヤは自動的に結線されて一筋になり、これで加工がスタートできるようになります。ただ、板を切断するだけであれば1回の結線でよいのですが、1枚の板の中に複数のスリットを作るような加工であれば、スリットの数だけ結線作業が必要です。昔は人の手で行っていた結線も、最近ではウオータージェット方式による高速自動結線が主流なので、比較にならないほど早く、確実に結線できます。ただ、自動であるために、スタート穴の垂直性や位置精度が悪いとうまくワイヤが通らなかったり、結線に失敗したりすることもあるので、前工程であるスタート穴加工は丁寧に行う必要があります。
ワイヤ放電加工のサンプルを1つ紹介します。ここまで繊細なはめ合い技術は、ワイヤ放電加工ならではですね。
ここであらためて考えてみましょう。1つの装置を作るための部品は、ブロック形、円筒形、金属を折り曲げたもの……と、実にさまざまです。“形がさまざま”ということは加工方法も多種多様なわけで、その中から目的に合った加工方法を見極めることは、本来、設計者に必要なスキルであるべきです。あのモーターケースの試作案件も、当時の筆者が「切削一筋!」みたいに偏った加工知識しか持っていなかったら、きっとお手上げだったかもしれません。
加工の世界でも、設計と同じく「最適解」はあっても「正解」はありません。ですから、発想力を養って選択肢を得るためにも、実際にさまざまな加工現場を一通り見て回り、加工の仕組みとメリット/デメリットを知っておくことが大切です。そして、機会があれば、直接指導を受けて自分の手で材料を加工してみると、より理解が深まることでしょう。 (連載完)
Profile
藤崎淳子(ふじさきじゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余(うよ)曲折の末、2006年にMaterial工房・テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“一人ファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組み立て、納品を一人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンター加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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