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インタビュー

ホンダのモノづくりをオーディオにも、開発者にこだわりを聞くイノベーションのレシピ(2/3 ページ)

ホンダがオーディオ機器用蓄電機を開発した。なぜ、ホンダが畑違いのオーディオ市場に足を踏み入れたのか。また、オーディオ製品の開発にあたり、ホンダの強みが生きた点や苦労した点はどこにあったのか。開発を担当した本田技術研究所の進正則氏などに聞いた。

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プロミュージシャンのコンサートにも貢献したホンダのインバーター技術

MONOist ホンダがオーディオ機器用蓄電機を開発すると決めたきっかけを教えてください。

進正則氏 われわれは1960年頃から発電機の開発を行っている。また、1980年代からは独自の正弦波インバーター技術も研究しており、きれいな交流電流を生み出す電源の開発を得意としている。

 2017年9月から、正弦波インバーターを搭載したベースモデルとなる蓄電機「LiB-AID E500」を販売している。ユーザーの利用調査を行った結果、オーディオ機器の電源供給として用いているオーディオ愛好家のユーザーが約5%いることが分かった。われわれが想定していたユースケースは、一般ユーザーがアウトドアシーンで使うというものだったので、この結果には驚きがあった。オーディオ愛好家のコミュニティでもLiB-AID E500が話題になったという。ベースモデルからさらにオーディオ対策をしたら、電源品質はどこまで向上できるのかという技術屋としての挑戦心も湧きあがった。

 また、同時期に開催されたプロミュージシャンのコンサートで、メンバーの機材に対して燃料電池車(FCV)の「クラリティ FUEL CELL」から電力を供給する実証を行った。そこでアーティストから、われわれのインバーターが作り出した電源が音質に良い影響を与えていると評価をいただいた。このような機会もあり、われわれの電源技術がオーディオ用途でハイクオリティな音楽の創造に寄与することも分かった。


LiB-AID E500 for Musicに搭載されるインバーターユニット。商用電源から独立したバッテリー由来の直流電流を昇圧し、理想的な正弦波を持つ交流100V電流に変換する。(クリックで拡大)

MONOist 初歩的な質問ですが、オーディオ機器の電源に理想的な正弦波を導入すると音質が何故良くなるのでしょうか。

進氏 オーディオ機器を含めた家電製品は家庭のコンセントから得られる商用電源で駆動している。商用電源は一般的に、発電所で作られた電気が何百kmもの送電線や数カ所の変電所を経て家庭に届く。この送電網の中で、電気が劣化したりノイズが乗ったりしてしまう。

倉田文七郎氏 商用電源は波形にゆがみやノイズが含まれており、自宅機器の作動による電圧変動の影響も受ける。これらの影響は非常に微細で、家庭にあるほとんどの電化製品を使う際に知覚することはないだろう。一方で、オーディオ機器は電気の質を音質という形で感じることができる。

進氏 オーディオ愛好家の中には「マイ電柱」(編注:自宅専用の電柱を建て、近隣宅の電力利用の影響を受けない専用柱上変圧器を整備すること)を立てる人もいる。電気の質にこだわりを持つ人は多い。

LiB-AID E500 for Musicに生かされたホンダのモノづくり

MONOist オーディオ機器向け電源というニッチな領域にも関わらず、商用電源の電気をきれいにする「クリーン電源」やマイ電柱といった、競合製品やソリューションが盛り上がりを見せています。LiB-AID E500 for Musicの強みはどこでしょうか。

倉田氏 オーディオ機器用電源においてバッテリー電源はまだ一般的とは言えず高価なものが多い。量産しているベースモデルを生かしたLiB-AID E500 for Musicはクオリティに対して価格面で優位性があると見ている。

進氏 また、商用電源に接続されるクリーン電源と比較しても、独立電源はオーディオ機器への供給電流にノイズが乗りにくい。クリーン電源は電圧変動やノイズが含まれる商用電源を補正してオーディオ機器に電力を供給するが、独立電源ではバッテリーから得られる電圧変動の少ない直流電流を高精度に交流電流に変換するため精度の面で有利となる。

左:ベースモデルからの改良点として、各部へのオーディオグレード品の採用がある。コンセントには音の質感や再現性に定評のあるフルテック製「GTX-D NCF(R)」を搭載。 右:オーディオコンセントの性能をフルに生かすため、コントロールパネルの素材には高い振動減衰能を有するマグネシウム含有アルミ合金「ヒドロナリウム」を採用している。(クリックで拡大)

MONOist ホンダのモノづくりは、LiB-AID E500 for Musicの開発でどのように生かされましたか。

進氏 この製品の開発では、今までわれわれが培ってきた電源の技術にオーディオで求められる電気的特性を加えることで開発を進めた。音質自体を評価するのは難しいので、電気の品質をメインの評価項目としている。

 また、社内にもオーディオ愛好家がおり、その社員から意見を聞くなど、社内外から意見を集約し、音質につながる電源の品質を追求している。

倉田氏 音質は定量的な評価が難しいが、聞き比べていくと相対的には差が判断できる。そういったやり方で外部の専門家やだれか1人の社員に頼るのではなく、チームで追い込んでいったことがホンダらしいモノづくりだと思う。


高周波領域のノイズ低減を図るため、筐体内面に複合機能性顔料配合の電磁波シールド材を施した。外部から飛来する電磁波の侵入を防ぐ他、電源内部の電子部品が発するノイズの影響をオーディオ機器に与えないようにした(クリックで拡大)

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