最後のデジタルデバイドである「水中」、水中無線技術は日本を救うか:組み込み開発ニュース
ALANコンソーシアムは2019年10月8日、東京都内で会見を開き、同団体が行っている水中用LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)や光無線通信、光無線給電などの技術開発について、進捗を説明した。
通信ネットワーク未開拓の領域と言えば、発展途上国や先進国でも山間部や砂漠といった自然環境が厳しい地域が思いつく。Facebookやソフトバンクなどは、無人航空機に通信基地局機能を持たせて通信未整備地域を飛行させることで、地上のインターネット未整備領域に通信網を構築する方針を立てる。しかし、さらに通信が未発達な領域が存在する。それは、「最後のデジタルデバイド領域」(ALANコンソーシアム 代表の島田雄史氏)とされる水中だ。
ALAN(Aqua Local Area Network:エーラン)コンソーシアムは2019年10月8日、東京都内で会見を開き、同団体が行っている水中用LiDAR(Light Detection and Ranging、ライダー)や光無線通信、光無線給電などの技術開発について、進捗を説明した。
ALANコンソーシアムは電子情報技術産業協会(JEITA)の共創プログラムに採択された後、2018年6月に発足。海中を代表とする水中環境(Aqua)をLAN(Local Area Network)と位置付け、音波や有線などの既存通信技術と住み分けながら、民需に特化した材料やデバイス、ネットワーク開発を推進する。水中作業が行えるダイバー不足が深刻になる中、橋脚など老朽化する水中インフラの健全性調査、いけすなどの水中モニタリング、そして日本周辺に多く存在するとされる海洋エネルギー調査の省力化につなげたい考え。
同団体では、水中LiDAR、水中光無線通信、水中光無線給電の技術開発を行っている。各技術の目標仕様として、水中LiDARが青色レーザーダイオードを用いたラスタースキャン方式を採用し、測位距離50m、分解能1cm以下を狙う。水中光無線通信は通信距離が1〜100m、通信速度が数十M〜1Gbps、水中光無線給電は伝送距離が1〜10m、伝送電力が10W以上を目標とする。まずは水中LiDARによる水中センシング技術確立を行い、その後にセンシングデータ送信のための水中光無線通信、そしてセンシングデバイスへ電力供給するための水中光無線給電の開発へ順を追って着手するとしている。
最も開発が進む水中LiDARでは、2019年8月に海洋研究開発機構(JAMSTEC)横須賀本部にある多目的水槽で実証実験を行っている。同実験では、耐圧容器に収容した水中LiDARをROV(遠隔操作型無人潜水機)に搭載し、水中対象物の3D測距画像取得に成功した。ALANコンソーシアム 代表の島田雄史氏は「青色レーザーダイオードを搭載した水中LiDARとROVによる実証実験は日本初」と胸を張る。
一方で、課題も見つかった。水中LiDARと耐圧容器のサイズがROVに対して大きすぎROVの操縦安定性が損なわれたこと、外来光や近端反射による測定ノイズの発生、スキャンの速度などで改善が必要だという。また、水流によるROVの位置ずれを補正する姿勢制御技術や測定用途に合わせた専用のソフトウェア開発も行う。今後、水中実験が実施できる常設大型水槽をラボ環境に設置し、水中LiDARを試験系フレームに組み付けて精密測定に対応させる方針だ。
水中光無線通信では、「水中光無線通信と水中監視プラットフォームの研究」と「大容量・長距離 水中光無線通信技術の研究開発」の2プロジェクトを外部予算により遂行中だ。特に、「大容量・長距離 水中光無線通信技術の研究開発」は2019年10月から3年間実施される計画で、伝送速度1Gbps、伝送距離100mの達成が目標だ。同技術はローカル5G(第5世代移動通信)との連携も想定し、水中と地上ネットワークをつなぎ、水中LANを実現するとしている。
同団体はこれら技術の研究開発を進めつつ、技術がどのように活用できるかを社会に広く浸透させたい考えだ。同団体では「研究開発要素という指摘を多く受ける」(島田氏)としつつ、身近なテーマで水中無線技術を披露するとしている。また、3年後を視野に製品開発につなげる方針を立てている。
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