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品質不正発生に備えた「危機管理」の重要性――レジリエンスを高める事例で学ぶ品質不正の課題と処方箋(5)(2/3 ページ)

万が一、品質リスクが顕在化した場合に備えて危機管理の仕組みを整備しておくことが重要です。危機では複数のタスクが同時多発的に発生する中で、どのような準備ができ、実際の対応にあたる際にはどのようなことに留意すべきなのかを、「レジリエンス」という危機管理のキーワードを用いて解説します。

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品質不正発生時の危機対応

 危機発生時には調査はもちろん、従業員や取引先、当局等を含む社内外関係者とのコミュニケーション、マスメディア対応や事業継続の確保等、複数のタスクが同時多発的に発生します。

 事務局は限られたリソースを効率的に使い、常に対応の優先順位を検討しながら進める必要があります。特に危機対応のプロジェクトで難しい点は以下の5点です。

  1. 事実調査を進めると予期しなかった重大な問題が発生するなど日々状況が変わる
    • 予定していた公表日(Xデーという)の前にリークや、従業員による告発等のリスクもあり、急きょスケジュールの大幅変更が必要となることがある
  2. 影響範囲が広がりすぎて、すべての取引先に事前説明ができない
    • 限られたリソースをどのような優先順位に基づき割り当てるかが重要
  3. 関与者の全体像がわからず、インタビューのコマ数と議事録作成だけで手一杯になる
    • 単純作業者の確保や、外部リソースの有効活用を行う
  4. 嘘をつく、隠す、誓約書にサインしない等の関係者の協力が得られないケースがある
    • 開示前には慎重に対応を行う。リークの可能性もあるため強制はしない
  5. 事務局員の疲労がたまる
    • シフト制にするなどの工夫が必要。過度な過重労働になるリスクが高い

 平時の対応とは異なる危機対応を効率的かつ円滑に進めるためには、図2にまとめた3つのポイントを意識しながらプロジェクトを進めることが有用です。


図2:危機対応の3つのポイント(クリックで拡大) 出典:KPMGコンサルティング

1. 被害を最小限に食い止めるための初動対応

 危機の発生後に重要な点は、「早急なエスカレーション(上位層への相談、報告)」と「事実確認」です。現場から本社(事務局、広報等)、そして経営トップとの連携を確保し迅速な意思決定を下す体制を早急に整えることが重要です。

 特に品質問題において重要なポイントは「危機の認識」です。品質問題の場合、「危機」と認識されていないケースが非常に多くあります。普段からコンプライアンス意識を高め、過去から継続して対応していたとしても、法令や顧客との契約を踏まえると問題であると認識することが重要です。

 また、その情報を早急にエスカレーションするためには、危機の定義や報告基準の策定を行い、きちんと報告したら本社や経営陣が「助けてくれる」というようなインセンティブを現場に感じさせることが重要です。報告された際に「叱責」することは絶対に避けるべきです。

2. 開示を見据えたタスク管理

(1)Xデーから逆算したプロジェクトマネジメント

 重大な品質問題が発生した場合、上場企業であれば証券取引所への適時開示が必要となります。当該開示日を「Xデー」とし、そこから逆算して各ステークホルダーに着目したタスクの整理と管理を行います。

 タスク管理と一言で言っても、危機対応の特殊性も考慮した場合、常に全体像を把握しておくことは非常に難しいため、プロジェクト管理に特化した役割を置くことがポイントとなります。

 関係者が目の前の仕事に没頭し忙殺され全体が見えなくなる中で、冷静に判断できる人材確保は重要です。社内だけでは難しいときには、弁護士やコンサルタントなどの外部リソースを使うことが有効です。

(2)危機広報対応の重要性

 いざ情報を開示する場面に至った場合、危機広報対応が非常に重要となります。危機広報対応の失敗で二次災害が発生するケースも非常に多く、その失敗が実際の問題よりも社会的に大きな影響を与え、最終的には株価にも大きく影響することになり得ます。

 散見される失敗例として、少しでも早く公表しなければならないと考え、不十分な調査の段階で憶測なども交えて大々的に公表してしまうことです。不確かな情報が新聞やニュース等で取り上げられ、仮に再度会見を行い情報を訂正したとしても、「隠ぺいした」「この前と言っていることが違う」と、余計なレピュテーション低下を生じさせてしまうケースがあります。

 上記の事例にあるような状態で公表することは、油まみれで火に飛び込むようなものです。原則として、可能な限り公表は早い方が良いですが、危機広報の成功は記者会見を上手に行えることではなく、「必要以上に目立たないこと」と言われることもあります。事前にQ&Aの準備やメディアトレーニングなどを十分に行い、しっかりと誠意ある対応をすることが重要です。図3に品質問題でよくある記者からの質問をまとめましたので、可能な範囲で事前に回答を準備することをお勧めします。


図3:品質問題でよくある質問(クリックで拡大) 出典:公表されている情報を元にKPMGコンサルティングで作成

 品質問題の場合で、特に自社の製品が消費者向けの製品でない場合は、商品が何に使われ、社会にどのような影響があるのかを専門知識の乏しいメディアや一般社会に分かりやすく伝えることが重要です。専門用語を並べても正確に伝えることができず、誤った情報が拡散されたり、記者のストレスを溜めたり、結果的に世間からの信頼を毀損することになります。丁寧にレクチャーする気持ちで説明することが重要で、事前にどのように説明したらわかりやすいかを準備しておくことをお勧めします。

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