調達・生産プロセスにおけるサプライチェーンの革新:サプライチェーンの新潮流「Logistics 4.0」と新たな事業機会(2)(2/3 ページ)
物流の第4次産業革命ともいえる「Logistics 4.0」の動向解説に加え、製造業などで生み出される新たな事業機会について紹介する本連載。第2回は、調達・生産プロセスにおけるサプライチェーンで起こりつつある革新について紹介する。
サプライチェーンマネジメントのデジタル化の現状と動向
サプライチェーンマネジメントのデジタル化は、日本だけが遅れているわけではありません。
2017年、ローランド・ベルガーはデジタル化の現状を把握すべく、グローバルカンパニーでサプライチェーンマネジメントを管掌している200人以上の経営幹部を対象に実態調査を実施しました。その結果、半数近くの企業は生産計画のデジタル化を成し遂げられていないことが分かりました。S&OP(Sales and Operations Planning)は58%、需要計画に至っては75%の企業がデジタル化を実現できていません。グローバルカンパニーでさえ、デジタル化の現状はこの程度なのです。
Logistics 4.0は、この状況に風穴を開けてくれるはずです。なぜなら、ロボットを導入するにしても、AI(人工知能)を活用するにしても、デジタル化は不可欠だからです。脱労働集約が進む過程で、半ば必然的にデジタル化が進むといっても過言ではないでしょう。
調達・生産プロセスでのイノベーション
サプライチェーンの全体像を俯瞰するに、デジタル化は調達・生産といった上流プロセスで先行的に進んでいます。相対的に関与するプレイヤーが少なく、取引関係が固定的であるため、サプライチェーンに関するさまざまな機能や情報をつなぎやすいからです。
ドイツの大手自動車部品メーカーであるボッシュ(Robert Bosch)は、生産と物流に関する情報を、調達先のサプライヤーや納品先の自動車メーカーと共有する「Virtual Tracking」を開発、導入しました。調達先、納品先との物流において使用するコンテナやパレットにRFIDタグを取り付けて、入出荷に際してのデータ管理を自動化するだけではなく、在庫管理の適正化にも活用しています。仕掛在庫や工場間輸送の状況もリアルタイムで共有されており、需給の変動に応じた生産・物流計画の弾力的な見直しを可能としています。
ドイツのコングロマリットメーカーであるシーメンス(Siemens)は、工作機械の稼働に関するさまざまなデータを集めて、生産性の改善余地やメンテナンスの必要性などを分析するオープンIoTオペレーティングシステム「MindSphere」の提供を開始しました。MindSphereを利用すれば、生産に要する稼働時間の短縮、歩留まりの改善、ダウンタイムの回避といった工作機械としてのパフォーマンスの向上を図れるだけではなく、複数の工場間で情報を共有し、納品先の設備稼働に応じた生産量の変更、出荷タイミングの調整などを行うことで、仕掛在庫の削減を中心としたサプライチェーンの効率化を図ることが可能です。
米国のソフトウェアプロバイダーであるインフォア(Infor)は、各工場の調達、生産、在庫、出荷の状況だけではなく、拠点間輸送や調達先、納品先とのグローバル取引をリアルタイムでトレースできる「Infor Nexus」を提供しています。Infor Nexusはサプライチェーンのデジタル化を実現するためのツールであり、製品の現在情報をもとに在庫の圧縮と欠品率の低減を両立させることが可能です。世界の主要な物流会社と連携しており、納期やコストなどの条件に応じて最適な輸送ルート/モードを合理的に選択することもできます。
MindSphereやInfor Nexusは、欧米のグローバルカンパニーのみならず、日系メーカーでも導入が広がりつつあります。調達・生産の最適化を実現する次世代サプライチェーンプラットフォームサービスの一例といえるでしょう。
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