「はやぶさ2」第2回タッチダウンの全貌、60cmの着陸精度はなぜ実現できたのか:次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(14)(3/4 ページ)
小惑星探査機「はやぶさ2」が2019年7月11日、2回目のタッチダウンに成功した。60cmの着陸精度を実現するなど、ほぼ完璧な運用となった第2回タッチダウンの全貌について、はやぶさ2の取材を続けてきた大塚実氏が解説する。
実行するかどうか、チームには迷いも
当初からタッチダウンの候補地点として考えられていたのはS01領域だったが、その後の接近観測などの結果から、「L14」「C01」の両領域が追加。これら3つの領域を候補として、着陸地点の選定が進められることになった。この中のC01は、作成された人工クレーターを含む領域である。
そして最終的に決定されたのは、「C01-Cb」という、半径3.5mの円形の地点だ。今回も狭いには狭いのだが、1回目の「L08-E1」よりはやや広い。1回目よりもターゲットマーカーが近いという好条件もあり、1回目で成功した実績がある「ピンポイントタッチダウン」であれば、十分可能なはずだ。
運用 | 1回目(TD1) | 2回目(PPTD) |
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実施日 | 2019年2月22日 | 2019年7月11日 |
着陸場所 | L08-E1 | C01-Cb |
着陸可能領域 | 半径3m | 半径3.5m |
使用TM | TM-B | TM-A |
TMからの距離 | 約6m | 2.6m |
TM追尾開始高度 | 45m | 30m |
最終降下軌道 | 斜め降下 | 垂直降下 |
ヒップアップ | 最終降下直前 | 8.5m到着直後 |
サンプル格納 | A室 | C室 |
着陸精度 | 約1m | 60cm |
表1 1回目と2回目の比較 |
ただし、2回目のタッチダウンを実施するかどうかの結論は、すんなりとは出なかった。JAXAとして、「実行」を正式に決定したのは6月25日。リュウグウは太陽に近づきつつあり、表面温度が高くなり過ぎると、タッチダウンができなくなる。リミットが迫る中で、ギリギリまで議論して出した結論だった。
慎重に議論を進めたのは、冒頭で述べた光学系の問題もあったからだが、何より、1回目と2回目では探査機自体の「重み」が違ったことが大きいだろう。タッチダウンにはリスクがあるとはいえ、1回もトライせずに地球に帰還しても意味が無い。難しくとも、1回目はチャレンジする以外の選択肢が無かった。
しかし今回は違う。1回目で既に成功しており、探査機の中には貴重なサンプルが格納されている。これだけでもサイエンス成果は計り知れず、2回目をあえて実行せず、帰還を優先させるという判断も十分あり得た。安全に成果を確定しておくか、それとも倍増を狙うか。これは非常に悩ましい選択だ。
まるでクイズ番組の選択のようだが、プロジェクトチームが実行を決めたのは、決していちかばちかのギャンブルでは無い。アボート(中止)条件を適切に設定しておけば、何か異常事態が発生したときでも、探査機は安全に離脱できる。サンプル採取に失敗することはあったとしても、安全は最優先で確保する。この姿勢は一貫している。
光学系が曇っていて、受光量が低下している問題には、ターゲットマーカーを捕捉する高度を45mから30mに下げることで対処した。これだけ高度を下げると、カメラの視野に入る地表の範囲が3分の2まで狭くなり、ターゲットマーカーを見失う可能性は増すものの、近いので視野に入りさえすれば捕捉はしやすい。その他、ターゲットマーカーを認識する際の画像処理のパラメータ(2値化の閾値)を調整するなどの対策も行った。
そして実行した結果は、完璧といえる成功。事前の予測では、タッチダウン時刻は10時5分〜45分と見られていたが、実際には10時6分と、ほぼ最速タイムでシーケンスが進行したことからも、ターゲットマーカーの捕捉が順調に行われたことが分かる。
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