中小製造業で次世代経営者が抱える問題と「継ぎたくない理由」:2019年版中小企業白書を読み解く(4)(8/8 ページ)
中小企業の現状を示す「2019年版中小企業白書」が公開された。本連載では、中小製造業に求められる労働生産性向上をテーマとし、中小製造業の人手不足や世代交代などの現状、デジタル化やグローバル化などの外的状況などを踏まえて、4回に分けて紹介している。第4回は、中小企業における世代交代の実態を主に「次世代の経営者」の状況を中心にお伝えする。
後継経営者になるための課題
次に、後継決定者が事業を継ぐために取り組んでいることや、後継経営者になるための課題について取り上げる。図22は、後継決定者が経営者になるために必要だと思う資質・能力とそれに対するアクションを示したものである。
これを、起業準備者が経営者になるために必要だと思う資質・能力(図23)と比較すると、全体として後継決定者の方がそれぞれの資質や能力に対し「必要かどうか分からない」と回答している比率が高い。一方で「必要性を感じており、既に取り組んでいる」という資質や能力に対するアクションを示している比率は低く「何をどうすべきなのかが分からない」とする後継決定者が多い。
中小起業白書2019では、事業を継ぐために必要な資質・能力は、起業する場合と比較して、体系的な情報を入手するのが難しいと推察している。
図24は、後継決定者が事業を継ぐために取り組んでいるものと、その中で最も有効だと思うものについて示したものだ。これによると、取り組んでいるもの、最も有効だと思うもので両方とも「事業内での勤務(経営)」「事業内での勤務(技術・ノウハウ)」と回答した者が多かった。
これは、経営者が実施した後継者教育の内容と、そのうち最も有効だった後継者教育の内容についても、「経営について社内で教育を行った」「自社事業の技術・ノウハウについて社内で教育を行った」との回答割合が高かったことから(図25)、後継決定者も近い認識であり、事業承継に当たっては社内で経験を積むことが重要のようだ。
厳しい環境の一方で明るい兆しも
第4回では、「次世代の経営者」に着目し、その実態と課題について分析してきた。経営者の高齢化が進む一方で、経営の担い手が減少しているという状況においては「後継希望者や起業希望者の増加」「経営資源損失の少ないスムーズな事業継承」にどう取り組むかが鍵となるだろう。
「平成」から「令和」という新たな時代に突入し、日本を取り巻く状況も変わりつつある。少子高齢化という避けがたい問題は依然としてありつつも、「デジタル化」や「グローバル化」といった環境の醸成や若い世代への経営の担い手のへの代替わりなど、中小企業にとって追い風となりえる状況もある。日本の全企業数の99.7%を占める中小企業は、疑うことなく日本経済の屋台骨である。本連載が中小企業をとりまく現状認識の一助となることを願ってやまない。
筆者紹介
長島清香(ながしま さやか)
編集者として地域情報誌やIT系Webメディアを手掛けたのち、シンガポールにてビジネス系情報誌の編集者として経験を重ねる。現在はフリーライターとして、モノづくり系情報サイトをはじめ、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。
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