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IoTで手術をスマート化、工場の技術を転用したデンソーの挑戦MONOist IoT Forum 名古屋2019(後編)(1/3 ページ)

MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンの産業向け4メディアは2019年7月10日、名古屋市内でセミナー「MONOist IoT Forum 名古屋」を開催した。本稿後編では、IoTによる新たな価値創出を実現したデンソー 社会ソリューション事業推進部 メディカル事業室 室長による特別講演「OPeLiNK 〜IoTでおこす治療室イノベーション〜」の内容と、その他の講演内容をお伝えする。

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 MONOist、EE Times Japan、EDN Japan、スマートジャパンの産業向け4メディアは2019年7月10日、名古屋市内でセミナー「MONOist IoT Forum 名古屋」を開催した。

 本稿前編では、オークマ 専務取締役 領木正人氏による基調講演「IoTが拓く“スマートファクトリー”の展望」の内容を紹介した。本稿後編では、IoTによる新たな価値創出を実現したデンソー 社会ソリューション事業推進部 メディカル事業室 室長の奥田英樹氏による特別講演「OPeLiNK 〜IoTでおこす治療室イノベーション〜」の内容と、その他の講演内容をお伝えする。

≫MONOist IoT Forumの過去の記事

増える情報で起こるミス、課題解決のための「スマート治療室」

 デンソーでは、ロボット技術を活用し手術支援ロボットの開発を進めていたが、これらを病院などに提案する中で、医療現場における課題に気付いたという。

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デンソー 社会ソリューション事業推進部 メディカル事業室 室長の奥田英樹氏

 奥田氏は「手術室などを見せてもらうと、ある手術室では約300種類の機械が750台稼働し、これらがそれぞれスタンドアロンで動いている。これらの機器から発信される情報を判断し、操作しながら、手術を進めていくということは、常人離れした情報処理能力がないと不可能だと感じた」と、医療現場における手術環境の課題について語る。

 実際に論文などで指摘がされているケースなども多いという。「ある論文では、1回の手術の中で起こるミスは平均で約15回になるという調査を示していた。その中には人の判断ミスなどもあれば、機械の操作ミスなども一定量ある」(奥田氏)。

 一方で、手術前に画像などを見て準備をしていても、手術中に人間の体は大きく変化することがある。そのため、状況の把握が困難になるケースなども数多く存在する。「例えば、脳の悪性腫瘍の場合、昔は不治の病とされていたが、現在では治癒するケースなども多くなっている。ただ脳は非常に難しい臓器で、腫瘍を摘出するのに傷つけた部位によっては、後の生活の質を大きく変えてしまう可能性もある。こうしたリスクがある中で、術中の変化などを把握できず、また開頭できる時間も限定されているために、腫瘍を大きく切除してしまい、後の生活の質を下げざるを得なくなってしまう状況なども生まれている」と奥田氏は難しい点を説明する。

 こうした厳しい状況に向き合わなければならない医師の負担を軽減し、手術室の情報を統合することで、手術の安全性と精度を向上させることを目指したのが「スマート治療室」である。そして、スマート治療室を実現するために各種医療機器を接続し情報を統合する治療室用インタフェースとしてデンソーが開発したのが「OPeLiNK」となる(※)

(※)関連記事:「スマート治療室」がIoTを本格活用、ORiNベースの「OPeLiNK」で医療情報を統合

 「これまでの手術室は、執刀医が個々に使いやすい機材などを持ち込んで手術を行う、単なる空間としての意味でしかなかった。『スマート治療室』化をすることで、手術室に設置された機器が連携し、欲しい情報をすぐに表示したり、手術内容に応じて設定変更を行ったり、手術室自体で価値を作り出すことができる。手術室そのものが連携して動く1つの治療機器となるようにする」と奥田氏は語っている。

「スマート治療室」実現に貢献した「ORiN」の存在

 スマート治療室では、各機器がネットワーク化されておりOpeLiNKにより共通インタフェースで接続。リアルタイムで各機器を連携させ、統合情報ディスプレイで表示し、高度な情報誘導手術を可能とする。手術中の情報などを的確に捉えながら、リアルタイムで情報のフィードバックなどが可能。また、手術内容を映像や機器操作のログを時刻同期データで詳細に記録することで、事象を後から検証するなど、多面的な評価が行えるようになったという。

 「医療現場で各機器個々での革新では限界がある。それぞれの機器を見ても進化の余地はどんどん狭くなってきている。一方で医療現場にはさまざまな課題が残されていて、これらの機器が円滑に連携するだけで、数多くの問題が解決できることが分かっている。デバイス単位での小さな競争から、用途や価値を見据えた上での共創の世界へと進化させることができると考えた」と奥田氏はOPeLiNKの意義について語っている。

 OPeLiNKで描く世界を実現するためには、各医療機器がリアルタイムで情報連携をするということが必須となるが、これを実現するための大きな技術要素となったのが「ORiN」の存在である(※)

(※)関連記事:いまさら聞けない ORiN入門

 ORiNとは「Open Resource interface for the Network」の略で、ORiN協議会により制定された工場情報システムのための標準ミドルウェア仕様である。当初は各企業のロボットを連携させるためのミドルウェアとして開発されたが、ロボット以外のFA機器、データベース、ローカルファイルなど、幅広いリソースを扱うことができることが分かり、FAにおける異種環境を吸収する役割で活用が進んでいる。

 特徴は「簡単にさまざまな機器を結んで情報連携できる」という点である。「例えば、PCとプリンタを接続しWordファイルを印刷するときに、各デバイスの機器やアプリケーションの種類などを意識しなくても行える。こうした世界を産業領域で実現できるのがORiNだ。デンソー内でも西尾製作所のカーエアコン工場では500以上のデバイスデータをORiN経由で収集している」(奥田氏)。

 OPeLiNKはこのORiNを基盤技術として採用することで、医療現場にあるさまざまな種類の機器を簡単に接続し、連携できるようにした。奥田氏は「FAを応用した次世代の情報融合プラットフォームを目指した。手術室において、映像、生体情報、動作情報、環境情報などを一元的に管理して表示し、デバイスの操作も可能である。また術中のコメントやイベントなども記録し、保存できる。コミュニケーションツールとしての役割も担う」と語っている。

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