2025年に“日の丸”自動航行船が船出するために必要なこと:自動運転技術(2/5 ページ)
「船の自動運転」と聞いて何を想像するだろうか。クルマの自動運転よりも簡単とは言いきれない。目視による見張り、経験と勘に基づく離着岸時の操作……これらをどう自動化するか。自動航行船の実現に向けた開発動向を紹介する。
「船ならクルマの自動運転より楽じゃーん」と思いますか?
MONOist読者的に今最も関心が高い「自動車の自動運転」と比べると、交通量密度がはるかに低く、外的要因による制限事項も緩やかな(と思われがちな)船舶の自動航行は「断然楽じゃーん」と考える人は多いだろう。それは、場面を限って言うならその通りだ。大洋航海において他の船と行き合う機会は少ない。他の船との距離も遠く離れており、密度もまばらだ。
ある意味「自動航行」的な装置は“古く”から船舶で使われている。シンプルかつ古くからあるのは、船の針路を保持する装置だ。舵を動かす舵輪や舵柄を、ロープや木製のくさびで固定することから始まり、内蔵したジャイロコンパスまたは電子コンパスで把握した現在の針路と、指定した針路が一致するように舵を操作し続ける自動操舵装置が、大型船から小さいヨット、パワーボートまで「当たり前」になっている。
今では、PCやスマートフォンを用いた電子海図や航法支援システムは安価で入手しやすくなっている。これらのシステムを使用する場合、出港から入港までの航路にある変針点(GPSを使ったナビゲーションシステムでいう“Way Point”)を設定すれば、現時点から変針点まで針路を維持したまま航行し、変針点に達したら次の変針点に向けて針路を変更して航行し続けられる。既に確立した技術として長く実用されているのだ。
一方で、航路が集中する海峡や、大規模港が集中する都市部の航路など、多くの船舶が輻輳(ふくそう)する海域では、そうはいかなくなる。ちょっとした操船ミスや他の船の発見遅れが衝突などの事故を引き起こす。そのような状況において、自分だけが針路を維持する操船では安全に航行できない。狭い航路にひしめき合う他の船の動静を正確にリアルタイムで把握しつつ、航行に関する法律に従い、状況に応じた適切なタイミングで針路と船速の変更が必須だ。
今も昔も最重要なのは「見張り」
自動航行船プロジェクトでいう「自動操船機能」では、このような“針路保持や変針操舵の先にある機能”に取り組む。その1つが「他船との衝突防止機能」だ。周囲に自分の船と衝突する可能性がある他の船がある場合、双方の針路と速度、自分から見た対象船の方位を把握し、衝突を回避するルールとして国際的に定められている「海上衝突予防法」に沿った回避航路(避航航路)の候補を提示する機能の実現を目指す。
既に2019年6月には、実施者として指名された大島造船所と三菱重工グループのMHIマリンエンジニアリングが共同開発した自動操船システム「SUPER BRIDGE-X」を導入し、衝突避航や座礁避航を可能にした実証試験船「e-Oshima」(総トン数340t)が完成している。
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