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AUTOSAR人材の育成に向けた提言(前編)「研修」で目指すものを一緒に見直しませんか?AUTOSARを使いこなす(11)(2/4 ページ)

車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載の第11回では、AUTOSARの人材育成に関わる「研修」の現状について取り上げる。

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問題1:「ここまでたどり着かなければならない」という期待や目標の設定

 「経験があるか?」「できるか?」「知っているか?」という問いに対する返答とその解釈は難しいものです。AUTOSARに限ったことではありません。特に社外のエンジニアを活用しようとしたときに、活用したい側と紹介する側の双方が頭を悩ませるところではないかと思います。「Yes」の類の返答があったとしても、活用したい側で実際の能力を推し量ることはとても難しいものです。

 いつまでも「難しい」と言い続けていても何も変わりませんから、何か試してみましょう。例えば、中間段階をすっ飛ばして「たどり着く先」を表現をするのであれば、表現するのは比較的容易かもしれません。理想像や将来の夢のようなものであれば、途中の段階を考えずに済みますから。早速試してみましょう。筆者自身が「これくらいのこと、知らないの? できないの?」とお客さまから言われてきたことをまとめてみると図1のような「仕様」になります。

図1
図1 筆者に投げつけられた、AUTOSAR Expertの像(クリックで拡大)

 ……まるで悪いジョークですよね? 確かに、ここまでできるようになったら理想的かもしれませんが、果たして一人でこれだけのことができるのでしょうか……。 もしそういう方がいらっしゃるのであれば、今からでもぜひ師事させていただきたいところです(たとえ一部できるだけでも十分に尊敬に値します)。

 さて、気を取り直して、先に進めましょう。問題はここにどうやって近づくか、近づけていくか、そして、そこまでの段階をどう表現するかです。

 図1の理想像には多くの問題がありますが、その1つは「何もかもを一人で行う」という前提です。エンジニアに対して「これもできなければダメだ」と言い放ってもなかなか状況が良くならないのは、このように要求が過剰になっているからかもしれません。皆に同じことを要求すれば、多くのエンジニアは現実主義者でしょうから手のつけやすいところから手をつけるでしょう。そうすれば、いつまでも手がつかない領域が残ります。

 しかし、組織としての能力要求と見るならば、分担することによって多くのことをカバーできるはずですし、組織の目標だと考えるなら、そう非現実的でも悪いものではないように思います。まずは組織として検討し、それから個人に割り当て、定期的に能力を評価し割り当てを見直すというような形であれば、組織の成長につながりやすいのではないかと思います。

 また、ここまで大きな話になってしまうとだまされてしまいがちなのですが、肝心なAUTOSARに関しての必要な能力についての具体的な記述はどこにもありません。「これくらいのこと、知らないの? できないの?」とぶつけられた内容には、「なんだ、このパラメータの内容すら覚えていないのか?」のようなもの※2)を除いては、これ以上具体的な内容はなかったのです。

※2)あえて挑戦的に書くならば、この手のご意見は「パラメータマニア的な批判」です。残念ながら、CAN DLCチェックのような基本的なものですら、バージョンが変われば意味が変わることもあります(R4.4.0で実際に変更されました)。「古い情報に殺される」という事態を避けるために、詳細を記憶に頼るということを、筆者は意図的に避けています。そして、「全般的な理解」のような荒い粒度の要求の次が、いきなり「パラメータ」の粒度に落ちてしまうのは、システマチックな抽象度のコントロールの観点(システムズエンジニアリングの観点)からも当然好ましくありません。

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