AUTOSAR人材の育成に向けた提言(前編)「研修」で目指すものを一緒に見直しませんか?:AUTOSARを使いこなす(11)(1/4 ページ)
車載ソフトウェアを扱う上で既に必要不可欠なものとなっているAUTOSAR。このAUTOSARを「使いこなす」にはどうすればいいのだろうか。連載の第11回では、AUTOSARの人材育成に関わる「研修」の現状について取り上げる。
はじめに
前回もお伝えしたように、今回は、AUTOSARに関わる組織的な人材育成面に目を向けてみたいと思います。
AUTOSARに限ったことではないのですが、能力を測り、表現するのは難しいものです。特に社外のエンジニアを活用しようとしたときに、活用したい側と紹介する側の双方が頭を悩ませるところでしょう。少なくとも執筆時点(2019年8月中旬)では、AUTOSARに関する公式のスキル認定の仕組みなどは存在しないため、「A社のBという研修を受けた」「X社の製品を利用してSW-C開発を行い、このBSWとRTEの設定を行う経験を持っている」などの表現が精いっぱいだと思います。
後者のような実務経験があれば、まだ技術者同士の話の中で力量を推し量ることができるかもしれません。しかし、問題になるのは前者の実務未経験者です。一般に「Basic/入門コース」などと銘打った教育コースは世の中に幾つもありますが、「受講したといっても、一体、何ができるのか、さっぱり分からない!」という、ご不満の声はしばしば耳にします。そして、「未経験者では不安だ」ということで経験者が優先して採用され、未経験者にはいつまでも機会が与えられず未経験のままとどまらざるを得なくなることが少なくないのです。
カリキュラムに対して業界全体が信頼を寄せられるようにすることが必要なのです。これは、カリキュラム設計側の努力(個人や個社という狭いスコープでの努力)だけで解決できるはずもありません。業界全体で共通の枠組みを設定し、かつ、それを育てていく※1)しかないのではないかと考えるようになってからは、少しずつそのための検討をしてきました。アインシュタインの格言「Insanity: doing the same thing over and over again and expecting different results.(筆者訳「狂気:同じことをただ繰り返しておきながら、違う結果を期待すること)」ではありませんが、当然ながら、時間が解決してくれるものばかりではないからです。
今回は、まだ十分とはいえないのですが、思い切ってこれらの点について整理を試み、また議論してみたいと思います。
※1)育てていく:残念ながら、「一度設定したらおしまい」にはなりえません。時間の経過とともに要求は変わりますから、State of the Artを維持し続けるためには、現場からのフィードバックを取り込み続ける必要があります。
AUTOSARの研修を行うにあたっての悩み
筆者が所属するイーソルでも、2019年に入ってからAUTOSARに関する研修サービス「AUTOSARトレーニングコース」の提供を開始しました。
今のところは、この研修の講師を筆者が務めているのですが、実は、いつも、開催の前日はあまりよく眠れません。
確かに、学生時代から人前でお話をすることは苦手だったのですが、他にも幾つかの理由があります。主には2つです。
1つは、受講する方々の「ここまでたどり着かなければならない」という期待や目標(ゴール)が、時にはあまりにも矮小であったり、また時にはあまりにも遠大であったりすること。もう1つは、受講する方々が既にご理解されている内容がそれぞれ大きく異なること、です。
ふと振り返れば、AUTOSARと関わるようになってからこれまで10年以上の間、研修やセミナーなどでAUTOSARに関してお話をする機会はかなりの回数がありました。そうであれば、この「悩み」が和らいでくれてもいいようなものだ、とお考えになる方もいらっしゃるかもしれませんが、先に書きましたように、これらの問題は、時間が解決してくれるようなものではないようです。
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