デジタルツインで改善を加速させるシーメンスのインダストリー4.0モデル工場:スマート工場最前線(1/3 ページ)
ドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」の旗手として注目を集めるシーメンス。そのシーメンスの工場の中でスマートファクトリーのモデル工場として注目を集めているのがアンベルク工場である。最先端のスマートファクトリーでは何が行われているのか、同工場の取り組みを紹介する。
製造現場においてもIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)など先進のデジタル技術を活用する動きが広がっている。その大きなきっかけとなったのが、ドイツのモノづくり革新プロジェクト「インダストリー4.0」である。「インダストリー4.0」では、デジタル化による産業の大きな変革に向け、産官学で一体となりながら取り組みを進めている。
その「インダストリー4.0」の中心企業の1社がシーメンスである。インダストリー4.0におけるさまざまな活動の中核を担う同社だが、インダストリー4.0を体現するモデル工場として、最も有名なのが、ドイツのバイエルン州アンベルク市にあるアンベルク工場である。さまざまなセンサーやIoT機器を積極的に導入し、毎日5000万件に及ぶ製品やプロセスのデータを収集し、活用を進めているという。
最先端のスマートファクトリーであるアンベルク工場では、どのような取り組みが行われているのだろうか。同工場においてPLC(Programmable Logic Controller)やHMI(Human Machine Interface)などを製造するElectronics Works Amberg(EWA)の取り組みを紹介する。
変種変量生産を効率化するのに必要だったデジタルの力
シーメンスのアンベルク工場そのものは約70年の歴史を持つ古い工場だが、その中でFA製品を製造するEWAは1989年に設立された。2019年は30周年を迎える。生産しているのは「Simatic」ブランドで展開しているPLCや、HMI、I/Oなどのファクトリーオートメーション(FA)製品群である。シーメンスのFA関連製品は、メイン工場3つ、協力工場3つの6工場で製造しているが、アンベルク工場が全生産量の67%占めるなど、マザー工場の役割を担っている。
EWAの生産エリアの面積は約1万m2で約1200人の従業員が働いている。同工場は、シーメンスの中でも、インダストリー4.0におけるモデル工場として早くから取り組みを進めてきたが、それにはFA関連製品の製造における変種変量化が進んでいる点があったという。
FA機器はさまざまな環境で使用される一方で民生製品のように同一モデルが大量に売れるような製品ではない。そのためどうしても1ロットの数が小さくなり、需要に応じた変動も大きくなるので、異なる種類の製品を求められた数だけ作る変種変量生産が求められるようになる。
実際にEWAでも、1年間に5000回の作業計画変更があり、1日に120種類のバリエーションが作成されている。また1200種類の異なる製品を製造するのに、毎日350回の段取り替えを行っているという。
同じものを大量に作る環境であれば、自動化設備を導入し1度機械の設定をすれば「それをどれだけ稼働させるか」という点だけがポイントとなる。しかし、段取り替えが頻繁に発生する場合は、どういう順番やどういう組み合わせで作業をすべきかなど選択肢が膨大となり、逐次変更の判断が求められるようになる。従来はこれらの判断を人の経験や勘で行ってきたわけだが、デジタル技術を活用することで、迅速化や効率化することを目指した。
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