検索
特集

国内産業に迫るヘリウム危機の打破へ、東大物性研が産学連携視野にリサイクル目指す研究開発の最前線(2/2 ページ)

ヘリウムの輸入依存率が100%の日本。さまざまな産業や研究機関で広く利用されているが、近年のヘリウムに関連する情勢は厳しさの一途をたどっている。東京大学 物性研究所は、国内に約40カ所ある研究機関併設のヘリウムリサイクル設備を活用した産学連携リサイクルでこの厳しい状況の打破を目指している。

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

機器開発でもヘリウム依存度を下げる努力が続く、しかし現状は厳しい

 ヘリウムを必要とする機器の開発でも、その依存度を下げる努力が続けられている。例えばMRI(磁気共鳴画像法)装置では、フィリップスが2019年4月から販売している「Ingenia Ambition 1.5T」がある。従来品は、超伝導磁石の超伝導状態を維持するために約1500l(リットル)のヘリウムで冷却する必要があったが、Ingenia Ambition 1.5Tは約7lで済む。また、NMR(核磁気共鳴)装置では、日本電子がヘリウム補充を不要とする製品を実用化している。

東京大学 物性研究所のヘリウム不要のNMR装置
東京大学 物性研究所のヘリウム不要のNMR装置(クリックで拡大)

 ヘリウムと比べてはるかに安価な液体窒素でも超伝導状態を維持できる高温超伝導の技術開発も進んでいる。将来的には、ヘリウムの冷却性能が必要なもの、液体窒素で済むものとに分かれ、全体としてヘリウム依存度が低下する可能性は高い。

 実際のところ、ヘリウムを使用した後のアクションについては、国内でも不透明な部分が多い。東京大学 物性研究所は、まず国内研究機関の現状把握を進めているが、企業についての情報は少なく苦戦している。接点があるようでなく、呼びかけができるようになった段階で、産業分野ごとにヘリウムを回収するめどの有無、回収率の見込みが見えるレベルだという。

 また、研究機関と企業の間でのヘリウムの運搬方法も課題だ。一時貯蔵先は既存施設を使用するのか、水素ステーションのように拠点を建設するのか。ヘリウムの重要性と今後の産業発展を考えると、石油のように備蓄の義務付けという方針もあるのではないか。さまざまな可能性についての模索が続いている状態だ。

 東京大学 物性研究所 低温委員長の山下穣氏は「ヘリウムの使用量を減らしていくにしても、それら代替技術が整うまではヘリウムに頼るしかない。ただし、それを待っているだけだと、研究だけでなく産業分野までも停滞してしまう。研究の最終目標が社会貢献だとすれば、ヘリウムリサイクルで産業を後押しするのも社会貢献ではないか。まずは情報と現状把握。企業とも意見交換をしたい」と述べている。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

前のページへ |       
ページトップに戻る