2020年、意匠法はどう変わる? 物品だけでなく画像や空間、そして光も対象に:大改正5つのポイントを解説(2/4 ページ)
「特許法等の一部を改正する法律案」が2019年5月10日に可決・成立し、同年5月17日に法律第3号として公布された。これを受け、来年(2020年)にも新たな法制度がスタートする。今回の改正で製品デザインの保護に関わる「意匠法」はどのように変わるのか? 日本弁理士会意匠委員会 委員長の布施哲也氏が解説した。
空間デザインの保護(建築物、内装)
繰り返しになるが、意匠法はこれまで物品を保護対象にしていたため、建築物のような不動産は登録できなかった。そのため、建築家やデザイナーが新規性のある創作的な建物や店舗などを建築した場合、著作権では保護できても、意匠登録は不可能だった。
「例えば店舗の場合、企業側は非常に外観デザインに力を入れている。今回の改正のきっかけとなった1つが、『珈琲所コメダ珈琲店』を運営するコメダによる訴訟問題だ。コメダは相手方(ミノスケ)を不正競争防止法で訴えたが、不正競争防止法や著作権違反で自らの主張を証明するには高度な創作性、さらには周知性や混同要件が求められるため、訴訟を起こし、その権利を勝ち取るためには非常に手間と費用がかかった。そのため、以前から建築家やデザイナーから意匠法で建物を保護してほしいという声が上がっていた」と布施氏は解説する。
今回の改正により、意匠の対象に建築物が含まれたことで、営業の初期段階から独占権を得ることができるため、「魅力的な店舗デザインによりアピールを試みるスタートアップ企業などにとっては有効なツールとなり得るだろう」と布施氏は述べる。
さらに、内装デザインの意匠登録も可能になる。これまでは、建築物と同様に不動産であること、そして、内装デザインは家具や壁、床、照明など複数の物品で構成されるため、“1意匠1出願(1物品に付き1つの権利)”の原則に反することを理由に、内装デザインの意匠登録は認められてこなかった。「しかし、建築物(建物の外観デザイン)と同様に、内装デザインは顧客の体験価値に直接訴え掛けるものであり、企業としてもブランドイメージの形成という観点から非常に注力しているため、内装デザインも意匠制度でしっかりと保護してほしいという声が大きかった」(布施氏)という。
そうしたことを踏まえ、今回、新たに条文を加えることで、各種構成要素からなる内装デザインも意匠登録の対象として認められるようになった。
布施氏は、ここまでの画像、空間デザインにおける保護対象の拡大効果について次のように語る。
「近年の技術革新や需要者ニーズの変化に沿ったデザインの捉え方に対応し、物品だけでなく、産業界で実際に流通しているデザインをしっかりと保護しようという思いが反映された法改正になっている。そのため、画像や空間デザインに注力している企業にとっては有効に機能すると考えられる。その一方で、これまで物品オンリーだったものが画像、建築物、内装にも対象が広がるため影響範囲はかなり大きくなると思われる。これまで意匠についてあまり意識してこなかった企業も今後は権利を侵害していないかどうか調査する必要が出てくるだろう。また、『画像とは』『建築物とは』といった言葉の定義として曖昧な部分や検索システム、データベースをどうするのかといった課題もあるため、今後の基準策定や運用の中でしっかりとまとまっていくことに期待したい」(布施氏)。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.