シーサイドラインの事故原因は「自動運転」ではない:モビリティサービス(2/4 ページ)
2019年6月1日に発生した新交通システム逆走衝突事故。原因は運行指令システムと制御システム間の通信不良であり、これは有人運転でも起こる。そこで、鉄道の自動運転のしくみと、現時点で判明している範囲で事故の原因、それを踏まえた上での対策について考察する。
鉄道の自動運転を支えるATOシステム
鉄道の自動運転システムはATO(Automatic Train Operation:自動列車運転装置)によって実施されている。ATOは軌道に設置して位置情報を伝える地上子と、車両側が位置情報を検知する車上子、加速とブレーキ制御を行う車上装置を組み合わせた仕組みだ。運転士は乗降扉が閉じ、ATC(Automatic Train Control:自動列車制御装置)の速度信号を確認して、運転開始ボタンを押す。これで加速、惰行、ブレーキが自動的に行われ、次の駅に停車する。運転士による運転開始ボタン操作を遠隔操作にすると無人運転になる。
ATO=自動列車運転装置とATC=自動列車制御装置という、似通った言葉が出てきた。ここを整理すると、ATOは運転保安装置として予定通りの加速と減速を行い、ATCは保安装置として制限速度を管理し、制限速度を超えた車両に対して自動的にブレーキをかけて減速させる。制限速度ゼロは停止信号で、これを超えた列車に対しては非常ブレーキを発動し停車させる。
日本の列車運転の安全策は、明治5年の新橋〜横浜間の開業以来「閉塞方式」という考え方だ。鉄道路線を駅間などで区切り、短い区間の連続と捉える。その上で、1つの区間に存在できる列車は1つだけとした。列車が存在する区間に他の列車は入れない。これが閉塞方式だ。鉄道路線は閉塞区間の連続になっている。
閉塞区間の入口に信号機があり、区間内に列車がいなければ青信号、列車がいる場合は赤信号となる。しかし、せっかく信号機を設置しても、列車の運転士が見落とせば列車は進入してしまう。単線であれば正面衝突、複線でも先行する列車に追突する。そこで、赤信号を出したときに、線路側から列車に停止の指示を出し、強制的に停車させる仕組みを作った。これをATS(Automatic Train Stop)という。最新のATSはデジタル技術によって、赤信号との距離を検知し、赤信号までに速度ゼロになるように徐々に減速させる機能もある。
ATCはATSの進化版として開発された。ATSは信号機が前提だ。しかし、地下鉄など見通しが悪い路線では信号機を遠くから判断できない。そこで、区間ごとの速度指示信号を運転席メーターパネルに直接示す。指示された速度を超えた列車にブレーキをかけて指示速度まで減速させる。
このように、鉄道の安全システムは「閉塞」「ATS」「ATC」が基本だ。「ATO」はその延長線上にあり、加速するシステムを追加したともいえる。
ATOに対して、発車の指示を出す役目が運転士だ。運転士の役目を遠隔化、自動化すると、シーサイドラインのような完全無人自動運転となる。ドア開閉や発車の指示など、運転士の役目は司令所からの遠隔操作であり、そこでも自動的な判断が行われる。
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