燃費と出力を両立する可変圧縮エンジン、日産が開発秘話語る:人とくるまのテクノロジー展2019(2/3 ページ)
「人とくるまのテクノロジー展2019 横浜」(2019年5月22〜24日、パシフィコ横浜)では、話題の新型車開発の舞台裏を語る「新車開発講演」が行われた。この中で取り上げられたのが、量産エンジンとしては「世界初」(日産自動車)となる日産自動車の可変圧縮比(VCR、Variable Compression Ratio)エンジンだ。日産自動車 パワートレイン・EV開発本部 アライアンス パワートレイン エンジニアリング ダイレクターの木賀新一氏が、VCRエンジンと、これを搭載する「アルティマ」の最新モデルに関する開発秘話を語った。
直4でもV6並みの低振動
日産自動車が「世界初」(同社)の量産にこぎつけたVCRエンジンだが、これまで日産自動車以外でもさまざまなメーカーが開発を進めてきた。木賀氏は「ピストンに油圧室を設けて上下させるものや、シリンダーヘッドごと動かすものなどさまざまな方法がある」と説明する。その中で日産自動車では独自のマルチリンク式VCR機構を採用した。「よくピストンの上死点を変えているのかと聞かれるが、上死点だけでなくピストンのストローク位置が変わる。変化量は約6mmで、無段階で自由に圧縮比を変えることができる」(同氏)と説明した。
マルチリンク式VCR機構は、従来のコネクティングロッドの代わりにアッパーリンクとロアリンクを使用し、ロアリンクの中央にクランクシャフトを接続している。横向きのロアリンクには片側にアッパーリンク、反対側にコントロールリンクを接続。専用のアクチュエーターでコントロールリンクの位置を動かすことでロアリンクの角度を調整し、ピストンのストローク位置を変化させて圧縮比を変えている。
なお、排気量はストローク位置により多少変動するという。燃料噴射は圧縮比に応じて直接噴射とポート噴射を使い分けている。ターボチャージャーは「斜流タービン」を採用し、エキゾーストマニホールドと一体構造とした。幅広い領域での過給とともに触媒の早期活性化を狙った。
さらにマルチリンク式の利点について、「従来のエンジンではコネクティングロッドが上死点側で速く、下死点側でゆっくり折り返していた。(VCRでは)ピストンモーションを強制的にサインカーブに変えている。これにより二次振動を抑制しトルク変動も少なくなったので、バランサーシャフトが不要となった」(木賀氏)と説明。
その結果、エンジンの振動が20dBほど低く、約95%低減した状態を実現した。直列4気筒でもV型6気筒に近い振動レベルを達成できたという。「日産では5.5気筒と呼んでいるほど振動が少ない」(木賀氏)とマルチリンク式VCRの大きなメリットとして挙げる。
その他にも「アッパーリンクが真っすぐ下降するため、通常のエンジンに比べてピストンのフリクションが45%低減した。ロングストロークとの相性が良いため、真っすぐ降りるのを諦めれば超ロングストロークのエンジンも可能となる」(木賀氏)という。また、「エンジンの燃焼タイミングは結構ばらつきが大きいため、ゆっくり燃えれば多少燃え方が変化しても時間的に余裕があるため熱効率が良くなる。これは将来EGR(排気再循環)においてベネフィットが得られる」(同氏)と説明した。
講演を聴講した来場者からはエンジンの構造や特性、コスト競争力などについて質問が挙がった。これに対して木賀氏は「摺動が増えたことで全体のフリクションは上がっている。ただ、バランサーを外したことや(ピストンの)サイドフォースが少ないため、4000回転までは従来エンジンより振動は少ない」と説明。コスト面については「燃費向上分とのバリューを考えると、ハイブリッドよりはずっと良い」と述べた。
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