ストップウォッチがいらない「PTS法」は標準時間による作業改善の原点:よくわかる「標準時間」のはなし(10)(2/4 ページ)
日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」を解説する本連載。第10回は、標準時間の測定結果が主観によって左右されず、ストップウォッチもいらない「既定時間標準法(PTS法)」について説明する。
2.WF(ワーク・ファクター)法
WF法は、米国のJ.H.クイック(J.H.Quick)らが開発したものです。WF法は、動作時間を決定するものとして、次の4つの要因を挙げています。
- (1)使用する身体の部位
- (2)動作距離
- (3)取り扱う重量または抵抗
- (4)動作の困難性(人為的調節)
2.1 WF法の概要
(1)使用する身体部位の区分
WF法では、使用する身体部位によって動作を区分し、「同じ身体部位で、他の条件が同じならば、作業の所要時間は動作距離に比例する」という考えに基づいています。同じ動作距離の場合でも、「指→手→前腕→腕→胴→脚→足」の順に従って時間がかかるようになります。
- 指および手の動作
- 前腕の旋回動作
- 腕の動作
- 胴の動作
- 脚の動作
- 足の動作
(2)動作距離
それぞれの身体部位は、その移動距離によって所要時間が変化し、移動距離が長くなるほど時間を必要とします。しかし、この時間は移動距離に正比例はしません。これは、動作の始点と終点で、それぞれ正または負の加速度がつくからです。
実際に工場の作業現場で見られる作業動作は、それほど単純ではなくいろいろと難しい内容を含んでいます。移動距離の長短以外に動作に含まれている動作の難しさの程度によっても時間は変化します。
(3)取り扱う重量または抵抗(W;Weight)
重い物を持った場合とそうでない場合とか、受ける抵抗によっても動作速度が違うことは当然のことといえます。
(4)動作の困難性(人為的調節)
何らかの難しさを含まない自由な運動を「基礎動作」といいます。この基礎動作に限っては、移動距離だけによって時間が変化します。ところが、この動作時間を遅らせる原因が無限に存在しているといっても過言ではありません。
WF法ではこの原因を4つの性質に要約し、動作の中にこれらの性質が幾つ含まれているかによって難しさを判定するようにしました。そして、動作時間は、その難しさの性質によって変化するのではなく、その動作の中に“難しさ(動作の困難性)”が幾つ含まれているかという、その数によって時間に遅れが生ずると規定しました。この考え方は、WF法における大原則であり、この「動作の困難性」の数を称して「ワーク・ファクター数」と名付けました。これら4つの動作の困難性を考慮すれば、通常に見られる作業の95%は分析が可能であるといわれています。
重量(抵抗も含む)によって動作時間が遅くなる現象は、どちらかといえば肉体的な難しさといえますが、これも同じく、ワーク・ファクターとして取り扱います。
WF法の動作時間表は、これら5つの要因の変化に応じて作成されます。距離はインチ(inch)で表し、一般に直線距離で測ります。「重量または抵抗」および「動作の困難性」については、前者はW、後者はD、S、P、Uとして5個の符号を付けて、その個数を数えることによって動作の等級とします。どのような場合に、どのような符号を付加するかが、WF法の分析技術を習得する上で難しく、最も重要なことです。以下の(a)〜(d)は、「動作の困難性」の4つの要因について、その内容を説明したものです。
(a)一定の停止(D;Definite Stop)
限られた空間内に動作を終了させるための人為的調節をいいます。一定の停止を伴って動作を終わらせるために必要とする人為的調節です。例えば、机上のペンを取り上げようとして伸ばす腕の動作には、ちょうどペンが置いてある上で、腕の運動を終わらせるという人為的な調節が含まれています。
(b)方向の調節(S;Steer)
小さい目標物に向かって動作の舵をとる人為的調節をいいます。限られた間隙に向かって何かを通したり、または小さな目標物に向かって動作を開始したりなど、動作の方向を誤らないようにするために必要な人為的調節です。例えば、針の穴に糸を通そうとして針穴に糸を近づける動作はその代表的な例です。
(c)注意(P;Precaution)
一言でいえば、危険に対する人為的調節をいいます。破損または傷害などを防止するため、あるいは何らかの人為的な調節をその動作中、維持することが必要な場合があります。すなわち、万一に備えて警戒しなければならない動作には、“注意”のような調節が含まれています。
(d)方向の変換(U;U-Turn)
動作途中における動作の方向変換をいいます。障害物を避けて動作を行う場合は、動作の方向を途中で変更する必要があります。このような動作は、それだけ動作時間に遅れが生じることになります。これらの動作には、“方向の変換”という難しさを含んだ動作ということがいえます。
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