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リチウムイオン電池を車載用にするための幾つものハードル、そして全固体電池へいまさら聞けない 電装部品入門(27)(2/3 ページ)

クルマのバッテリーといえば、かつては電圧12Vの補機バッテリーを指していました。しかし、ハイブリッドカーの登場と普及により、重い車体をモーターで走らせるために繰り返しの充放電が可能な高電圧の二次電池(駆動用バッテリー)の重要性が一気に高まりました。後編では、ニッケル水素バッテリーの欠点だったメモリ効果をクリアしたリチウムイオンバッテリーについて紹介します。

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きめ細かな充電制御

 また、非常に繊細な充電(電圧)制御が必要であることも課題の1つです。初代プリウスは240セルのニッケル水素バッテリーを直列接続していたと先述しましたが、リチウムイオンバッテリーもセル数は少なくなりますが同様の直列接続が必要になります。それぞれが非常に繊細な環境が必要であると同時に、充電時に各セル全て均等に管理された充電電流を送りこまなければいけません。

 また各セルの電圧もほぼ完璧に一致していなければ危険であることから、セル毎の電圧を常時監視するシステムも必要です。実際に、たった1つのセル電圧が他のセルと比べて差異が生じた時点で高電圧システムを遮断するような安全システムが働いています。これは技術的な難しさというよりも、ここまで繊細な監視システムを搭載することによって量産車としてのコストとして成立するかという点が1番大きいかもしれません。

 さらに、自動車は真夏でも屋外に直射日光下に放置されることがありますので、リチウムイオンバッテリーにとって最も寿命を縮める高温下での充放電を繰り返す使われ方に耐えうる何らかの工夫が求められます。そのため、最低でも常にバッテリー内部の温度を監視しながら強力なファンを用いた冷却も必要となります。もちろん基準以上の温度に達した時点で安全を優先させ、出力制限などを行うといった制御も必要不可欠です。


リチウムイオンバッテリーのバッテリーパック(クリックして拡大)

 まだまだご紹介できていない細かな部分もありますが、これらの難題をクリアした上で“10年10万km”といわれている乗り換えサイクルに合致するだけの寿命を提供できなければ、商品として不成立となります。仮に携帯電話機を10年使ってみるとなるといかがでしょうか、バッテリー無交換で不自由せず使い続ける事はできますか?

 携帯電話機のバッテリーであればまだ安価な方ですので少しの覚悟で交換できると思いますが、ハイブリッドカーのバッテリーパックとなると数十万円は確実に必要です。つまり無交換が当たり前というレベルを目指さなければいけない訳ですね。

 簡単にご説明してきましたが、自動車にリチウムイオンバッテリーを搭載するハードルが非常に高いものであることをご理解いただけたかと思います。しかし各社の努力により、最近のハイブリッドカーには当たり前のようにリチウムイオンバッテリーが搭載されるようになりました。

 今でこそ当たり前になりましたが、技術者の皆さまが数えきれない程のハードルを乗り越えた結果であることを想像すると、非常に感慨深いものがあります。さらに、全くと言っていいほど居住空間を犠牲にせずバッテリーパックを搭載しているハイブリッドカーも今は登場しています。


ホンダ「インサイト」は後部座席の下にバッテリーパックを収納(クリックして拡大) 出典:ホンダ

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