ファブラボとは何か? 国内ファブラボの歩みを振り返る:日本におけるファブラボのこれまでとこれから(1)(2/3 ページ)
日本で3番目となる「ファブラボ渋谷」の立ち上げを経験し、現在、「ファブラボ神田錦町」の運営を行っている立場から、日本におけるファブラボの在り方、未来の理想形(これからのモノづくり)について、「これまでの歩み」「現在」を踏まえつつ、その方向性を考察する。
「ファブラボ」という名称について
ファブラボの名称について利用許可を出すような認証システムは、今のところありません。世界のファブラボの活動を取りまとめる「Fab Foundation」では、ファブラボの名称を利用するための条件として、以下の4つを挙げています。
- 地域に開かれていること
- ファブラボ憲章の理念に基づき運営されていること
- 共通の推奨機材を備えていること
ファブラボの推奨機材:3Dプリンタ、レーザーカッター、CNCルーター、ミリングマシン、ペーパーカッター、電子工作ツール、各種ハンドツール - 国際規模のネットワークに参加すること
地域に開く方法については、「ファブラボは少なくとも1週間に1回は無料、またはお金ではないやりとりや交換条件および交渉の下で、地域に利用を公開する必要があります」とされており、その条件については、ファブラボごとに熟考されています。ファブラボ鎌倉の「朝ファブ」は、その象徴となっています。また、自身で取り組んだプロジェクトのプロセスや結果、設計データなどを、インターネットを通じて公開することも推奨されています。共有を通じた、モノづくり環境の醸成を期待しています。
なお、日本国内においては「ファブラボ」という名称について、2014年にFab Commonsが提案する「オープン・トレードマーク・ライセンス(OTL)」というライセンス形式を用いて、商標登録しています。このOTLという仕組みにより「ファブラボ」という商標を守りつつ、条件付きで開放しています。この取り組みについては、『「ファブラボ」商標権の取得と名称の使用について』を参照ください。
企業のモノづくりから、個人のモノづくりへ
“ファブラボの描く未来”に向けた流れは、コンピュータの歩みに沿って話すことができます。
コンピュータが社会に初めて登場したとき、それは“専門家のためのもの”であり、大型で今ほどの処理能力は(当然)ありませんし、とにかく高額でした。その後、専門家たちの研究や技術の発達とともに、高性能化や小型化、低価格化が急速に進んでいきました。
今では一家に1台以上のコンピュータが普及しています。また、「インターネット」の誕生もそれを後押ししました。コンピュータに触れない日を作ることが難しいほど日常的なものとなり、日々、個人がコンピュータを使ってさまざまな創造活動を行っています。これが、パーソナルコンピュータ(通称:パソコン)の歩みです。
実は、工作機械の世界でも同じような風景を描いているのです。
工場や研究施設の中に閉じていた“専門家のための工作機械”が、ファブラボにより地域に開放されます。すると、地域の人たちが気軽にモノづくりに向き合うことができるようになり、そこでさまざまな製作がスタートします。また、それらの製作データはインターネットを通じて世界中に共有され、モノづくりのレシピが世界規模で作られていきます。徐々に「使うモノを、使う人自身が作る」ことができるような環境になっていき、機械のパーソナル化、すなわち「パーソナルファブリケーション」の未来がやってくると考えられているのです。
実は、「第4次産業革命(インダストリー4.0)」の中で唱えられている世界は、ファブラボが描く未来とリンクする部分もあり、ファブラボが“未来の産業構造の一部”として機能することが期待されています。
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