センサーなど時系列データを自動ラベリング、研磨作業で92%の精度を実現:人工知能ニュース
富士通研究所と熊本大学は、加速度センサーやジャイロセンサーなどの時系列データに対して、AIを適用する上で必要な教師データを簡単に作成できる技術を開発した。今後、さまざまな分野の時系列データを用いた実証実験を進め、富士通のAI技術「Zinrai」の時系列データ向け前処理技術として2019年度中の実用化を目指す。
富士通研究所と熊本大学は2019年5月10日、加速度センサーやジャイロセンサーなどの時系列データに対して、AI(人工知能)を適用する上で必要な教師データを簡単に作成できる技術を開発したと発表した。今後、さまざまな分野の時系列データを用いた実証実験を進め、富士通のAI技術「FUJITSU Human Centric AI Zinrai」の時系列データ向け前処理技術として2019年度中の実用化を目指す。
深層学習(ディープラーニング)などAI技術の開発が進む中で、学習をするための教師データに意味付けを行う「ラベリング」にかかる手間やコストが課題になっている。中でもラベリングが大変なのが、センサーから得られる時系列データだ。時刻と加速度などのセンサー数値がセットになって記録されているだけなので、これらのデータの集合に対して、「いつ」(区間)「何を」(ラベル)したかを付与して意味付けを行い、AIが学習するための教師データに仕立てる必要がある。
例えば、ランニングの際に装着した加速度センサーのデータは、時刻と加速度の値が同期して記録されているものの、実際のランナーの状態は加速度の数値とは別に「走っている」「歩いている」「止まっている」などのように変化している。これらをAIに学習させるには、それぞれのデータを区間に切り分けて、「走っている」「歩いている」「止まっている」といったラベルを付与した教師データを作成する必要があった。
従来、このような教師データを作成するには、時系列データを測定している最中にビデオで振る舞いを録画しておき、秒単位で変化する数値に対してどの振る舞いをしているのか照らし合わせた上で、人手でラベルを付与するのが一般的だった。しかし、この作業は大きな負担と時間がかかるため、時系列データのAIへの適用が進まず、ラベル付与作業の手間を削減する自動化技術が求められていた。
今回、富士通研究所と熊本大学が開発したのは、複数の動作を含む場合でも、主に「何を」しているかを表すラベルを長区間(例えば1時間)につき1つ入力するだけで、時系列データのAI利用を可能とする高精度な教師データを自動で作成する技術である。特徴は2つある。
1つは「適切な区間抽出」で、時系列データの中で、同じ動作が継続している時の特徴と、動作が変化する時の特徴を学習し、時系列データから同じ特徴を持つ動作の時間帯を適切に自動抽出することができる。
もう1つは「高精度なラベル付与」だ。例えばランニングの場合、長区間(1時間)ごとのデータに対して、大半が走っている場合には「走っている」という大ざっぱなラベルを1つ付与しておく。これらのラベルを予測できるように深層学習で学習させた後、この学習済みのニューラルネットワークを使って時系列データを読み込ませ、結果として出てきた推定ラベルから、時系列データのどの区間が最も予測に寄与したかを計算する。その寄与度が高い時間帯をラベル候補として集計していくことで、高度な予測が可能な教師データを作成できる。
実際に、工場における研磨などの作業を模した動作からなる加速度センサーの時系列データに対してラベルを付与する実験を実施したところ、92%の時間帯で正しくラベル付けができたことを確認した。この結果は、人手でラベルを細かく付与したデータを教師データとした時と同等の高精度な結果だという。
なお、今回の技術は、時系列データの数値の特徴だけから判断を行い、センサーの種類には依存しないため、温度センサーや脈波センサーなどにも適用できるとしている。
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