TPP11とG20大阪サミットで注目されるカナダの医療機器サイバーセキュリティ規制:海外医療技術トレンド(43)(3/3 ページ)
米国やオーストラリアで進む医療機器のサイバーセキュリティ規制改革だが、その国際規制調和をリードしているのがカナダだ。TPP11が発効し、G20大阪サミットも控える中で、同国の取り組みに注目が集まっている。
G20大阪サミットやTPP11協定をにらんだ医療機器の国際規制調和
医療機器の安全・品質管理に関連してカナダ保健省は、2018年12月20日、「カナダ保健省の医療機器行動計画:安全性、有効性、品質の継続的改善」と題する文書を公表した(図3、関連情報)。
図3 カナダ保健省の医療機器行動計画:安全性、有効性、品質の継続的改善 出典:Health Canada「Health Canada's Action Plan on Medical Devices: Continuously Improving Safety, Effectiveness and Quality」(2018年12月20日)
その中で、カナダ保健省は、以下のような行動計画およびタイムラインを示している。
- 第1部:市場における機器の入手方法の改善
- 医療専門家による研究の拡大と患者保護の拡大 - 2019年早期に開始
- エビデンス要求事項の見直しと科学的専門性の拡張 - 2019年1月に開始
- 第2部:モニタリングとフォローアップの強化
- 報告義務の導入とカナダ医療機器センチネルネットワークの拡張 - 2019年2月に開始
- 医療機器の安全性・有効性に関する情報を強いる機能の創設とリアルワールドエビデンスの利用の拡張 - 2019年早期に開始
- 査察と法執行における能力の強化- 2019年に開始
- 第3部:カナダ市民に対する一層の情報の提供
- 医療機器臨床データへのアクセスの改善- 2019年早期に完了
- 医療機器承認に関する情報の拡大と医療機器インシデントデータの公表 - 2019年1月に開始
参考までに、米国FDAは、2018年11月28日、「医療機器安全行動計画:患者の保護と公衆衛生の促進」と題する報告書を公表し、以下のような項目に関する行動計画を示している(関連情報)。
- 米国に、堅牢な医療機器のセーフティネットを創設する
- 市販後緩和策の導入を簡素化・近代化する規制の選択肢を探索する
- より安全な医療機器に向けてイノベーションを刺激する
- 医療機器サイバーセキュリティを前進させる
- 機器安全に対するトータル製品ライフサイクル(TPLC)アプローチの利用を前進させるために、医療機器・放射線保健センター(CDRH)の市販前と市販後の事務所および活動を統合する
本連載第42回で取り上げたオーストラリアでも、連邦政府保健省の薬品・医薬品行政局(TGA)が、新技術導入のリスク管理、国際規制調和などの視点に立った「オーストラリア医療機器規制ガイドライン(ARGMD)」の見直し作業を進めている(関連情報)。
ちなみに、米国、カナダ、オーストラリア、そして日本は、国際規制調和策の一環として、第三者調査機関を使った単一調査実現を目的とした「医療機器単一調査プログラム(MDSAP)」に参画している(関連情報)。4か国とも、2019年6月28〜29日に大阪で開催される2019年G20サミットの参加国だ(関連情報)。
加えて、日本、カナダ、オーストラリアの3か国は、2018年12月30日に発効した「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(TPP11協定)」に加盟している(関連情報)。医療機器分野では、過去の交渉プロセスにおいて、各国・地域間に意見の相違は見られなかった。民間企業にとっては、競争力のある新製品・サービスを創り出せるイノベーション力が大きく問われることになる。
海外事業展開を図る医療機器企業にとっては、各国・地域間の国際規制連携の波をうまく活用する一方、サイバーセキュリティが実質的な貿易障壁とならないような規制対応策を検討・実行する格好のタイミングでもある。
筆者プロフィール
笹原英司(ささはら えいじ)(NPO法人ヘルスケアクラウド研究会・理事)
宮崎県出身。千葉大学大学院医学薬学府博士課程修了(医薬学博士)。デジタルマーケティング全般(B2B/B2C)および健康医療/介護福祉/ライフサイエンス業界のガバナンス/リスク/コンプライアンス関連調査研究/コンサルティング実績を有し、クラウドセキュリティアライアンス、在日米国商工会議所等でビッグデータのセキュリティに関する啓発活動を行っている。
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