トランプ政権の「SAFE」で激変する米国燃費規制、中国はEV普及をさらに加速:IHS Future Mobility Insight(11)(3/3 ページ)
完成車の不適切検査をはじめ品質問題がクローズアップされた2018年の国内自動車市場だが、グローバル市場では2018年後半から2019年にかけて大きな地殻変動が起こりつつある。今回は、自動車市場にとって大きな潮目となるであろう2019年以降の展望として、米国と中国の燃費規制に基づくパワートレイン動向予測をお送りする。
中国ダブルクレジット制度のインパクトは?
ここからは、王氏による中国の燃費規制に基づくパワートレイン動向分析を紹介する。
中国政府はエネルギー安全保障や大気汚染改善を目的に「ダブルクレジット制度」を導入した。同制度は、乗用車企業平均燃費規制(Corporate Average Fuel Consumption:CAFC)と、EV/PHEV/FCVといった新エネルギー車(New Energy Vehicle:NEV)の生産台数を同時に義務付けるものだ(図5)。
このNEVを普及させるため、中国政府は補助金(NEV補助金)を支給している。ただし、補助金はE-レンジ(電動走行距離)と電池(バッテリー)エネルギー密度に応じて支払われる。そのため、E-レンジの短いNEVは、新補助金に大きく影響を受ける。図6の左側を見てほしい。電動走行距離が100k〜150kmのNEVは、2018年下半期には一切の補償金が支払われなくなる。
こうした政策の背景には、政府が電動走行距離の長い――つまり性能の良い――NEVを対象に購買を促すようにしているからだ。補助金は全体的に縮小の方向にあるものの、電動走行距離が300km以上のNEVに対する補助金は、2018年下半期でも増加している。
また、電池エネルギー密度にも高い基準が設定されている。これは良質の電池を搭載するNEVの普及を目的としたもので、エネルギー密度が高いほど補助金が支払われる。つまり、エネルギー効率の悪い安価なバッテリーを大量に搭載したNEVには、補助金が支払われないのだ(図7)。
政府は補助金制度を半期に一度の割合で見直しており、これまで手厚い保護を受けてきた小型セグメントのNEVは、EV市場の構造調整による「保護」を失いつつある。こうしたことからも、政府が質の良いNEVを推奨していることが読み取れる。政府は次のNEV補助金プログラムについて詳細を明らかにしていないが、自動車メーカーにさらなるNEV生産を迫るべく、内容を厳格化することが予想される。
多くの中国地場自動車メーカーは、2020年のCAFC目標(フェーズ4)となる5l(リットル)/100kmを達成するという課題への対処方法を模索している。従来型パワートレインに燃費改善技術を導入するだけでCAFC目標を達成することは可能だが、その一方でNEV規制も達成しなければならない。このため、NEVの生産と従来型パワートレインの最適化を並行することが2つの規制を達成する上で最も有効だと考える。
さて、こうした規制は日本の自動車メーカーにとってどのような影響を及ぼすかだが、現時点で一概には言えないだろう。そもそも、日本の自動車メーカーが提供するクルマは燃費がよく、すでにCAFCは達成している。また、NEVに関してもモデル数は限定的だが、技術力は優れている。このため、政策が厳格化しても、迅速、かつ柔軟に対応できる可能性が高く、最終的には各社の取り組み次第というところになるからだ。
プロフィール
波多野 通(はたの とおる) IHSマークイットジャパン プリンシパルアナリスト パワートレイン&コンプライアンス
東京都立科学技術大学(現首都大学東京)航空宇宙システム工学科卒業後、日系自動車メーカーにエンジニアとして入社し、エンジンの開発に従事。その後、IHS Markit Automotiveの前身となるCSM Worldwideにパワートレインアナリストとして入社。一貫して自動車のパワートレイン動向を調査・分析を行う。
https://ihsmarkit.com/ja/topic/automotive-thoughtleaders.html
プロフィール
王 珊(Shan Wang) IHSマークイットジャパン シニアアナリスト パワートレイン&コンプライアンス
日系最大手部品メーカーの中国拠点で勤務を経て、日本に留学。東北大学経済研究科博士後期課程修了、学術論文実績あり。2015年からパワートレインアナリストとして入社、韓国・中国自動車のパワートレイン動向を調査・分析を行う。
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