熱効率50%に達するクルマのエンジン、オールジャパンの研究が支える:エコカー技術
クルマ用エンジンで大きな進歩が生まれた。戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「革新的燃焼技術」研究グループは、正味最高熱効率が50%を上回るガソリンエンジンとディーゼルエンジンを実現する研究成果を得たと発表した。この成果は、複数の大学と企業が相互に連携するオールジャパンの「産産学学連携体制」によるものだ。
クルマ用エンジンで大きな進歩が生まれた。内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)の「革新的燃焼技術」研究グループは、正味最高熱効率が50%を上回るガソリンエンジンとディーゼルエンジンを実現する研究成果を得たと発表した。この成果は、複数の大学と企業が相互に連携するオールジャパンの「産産学学連携体制」によるものだ。
エンジンの熱効率向上は長年にわたり世界の研究者が携わってきた研究テーマだ。市販車エンジンの正味最高熱効率は1970年代に30%程度だったが、40年以上経過した現在においても40%に到達する程度にとどまる。そこで、SIPの研究グループはエンジンの熱効率をさらに引き上げるべく、グループ発足から5年の短期間で50%の大台を突破すること、そしてグループ終了後も続く産学連携活動を目標としてきた。
本研究の成果は燃焼の効率化と損失の低減に大別できる。ガソリンエンジンの燃焼研究を担当したチーム(研究責任者:慶應義塾大学 大学院理工学研究科 飯田訓正特任教授)は超希薄燃焼(スーパーリーンバーン)、ディーゼルエンジンの燃焼研究を担当したチーム(研究責任者:京都大学 大学院エネルギー科学研究科 石山拓二教授)は高速空間燃焼をテーマに熱効率の改善を図った。
ガソリン燃焼チームが担当したスーパーリーンバーンでは、理論空燃比(ガソリンエンジンの場合は14.7:1)から燃料濃度を半分以下にした混合気(当量比0.5以下)の安定燃焼を実現した。一般的にスーパーリーンな混合気は着火および火炎伝播が安定でなく、燃焼が不安定になるという課題があった。研究チームは強力なタンブル流(縦渦)を持つスーパーリーン混合気を気筒内に導入。この混合気をピストンで圧縮し、微細な渦群を生成させた。
そこに強力な放電エネルギーを与えるスーパー点火を適切な間隔で複数回行うと、タンブル流に追従した放電路が伸長する。未燃ガスに放電エネルギーが分散的に供給され、燃焼室内に複数の火炎核が生成、蓄積される。その後、ピストンが混合気を最も圧縮したときにタンブル流動が崩壊し、多数の火炎核が火炎伝播を同時に開始し、加速する。これにより安定した超希薄燃焼が実現できたとする。
また、ディーゼル燃焼チームが担当した高速空間燃焼では、燃料噴射と火炎形成の関係を解明し、膨張行程中に未燃燃料が燃焼し熱効率の低下原因となる「後燃え」の要因を特定した。同チームは4回の燃料噴射を行う多段噴射において、ピストン・シリンダー壁面から離れた場所に火炎を発生させるプレ噴射と、噴霧量を徐々に減らす「発展型逆デルタ噴射」と名付けられたメイン噴射を採用した。
プレ噴射は噴霧の貫徹力を低く設定し、冷却損失の原因となる壁面から離れた場所で火炎を発生させる。これにより、次段のメイン噴射で形成する火炎においても壁面から離すことができ、燃焼期間中の冷却損失低減を図った。また、メイン噴射を発展型逆デルタ噴射とすることで、燃料噴霧に多量の空気を巻き込む低流動で高速な燃焼とした。これにより、従来燃焼と比較して表面積の広い火炎が燃焼室中央に位置する高速空間燃焼が実現できたという。
エンジンの損失低減に関する研究チーム(研究責任者:早稲田大学 研究院次世代自動車研究機構 大聖泰弘特任研究教授)は、機械摩擦損失を55.5%する低摩擦層と表面改質技術、従来のターボ加給より10%以上上回る高効率ターボ過給システムの構築、最大1.3%程度の熱効率上昇が見込まれる排気熱を利用する熱電変換システムを実証した。
本研究で得られた知見は、物理式で表現されるモデルやソフトウェアにまとめられたとし、「各成果が明確になり大学等での次の研究開発で継承されやすくなる」(科学技術振興機構)。また自動車産業に限らず、燃焼や流体を取り扱う広い産業分野でのモデルベース開発(MBD)に研究成果が利用できるとしている。同グループは2019年1月28日の最終公開シンポジウム(東京大学安田講堂)で詳細を発表する。
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