高温超電導電磁石の機能を実証、粒子線がん治療装置の小型化・省エネ化へ:医療機器ニュース
京都大学は、液体ヘリウムを使わずにコイルを冷却する加速器応用に向けた高温超電導電磁石を開発し、重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いて、その機能実証に成功した。
京都大学は2018年12月13日、円形粒子加速器(粒子加速器)に用いる高温超電導電磁石を開発し、重粒子線がん治療装置(HIMAC)を用いて、その機能実証に成功したと発表した。同大学工学研究科 教授の雨宮尚之氏、東芝エネルギーシステムズ、高エネルギー加速器研究機構、量子科学技術研究開発機構(QST)の研究グループによる成果となる。
今回、研究グループは、液体ヘリウムを使わずにコイルを冷却する加速器応用に向けた高温超電導電磁石を開発した。その機能を調べるため、QSTの重粒子線がん治療装置(HIMAC)で実験を実施。その結果、3つの成果を実証した。
まず、ビームダクト(粒子ビームを通すための穴)に430MeV/uというエネルギーの炭素イオンビームを通し、高温超電導電磁石によって発生した最大2.4T(テスラ)の高磁界で、計算で予測した通りに粒子ビームを誘導できることを実証した。炭素イオンビームは重粒子線がん治療に用いられるため、この成果は粒子線がん治療装置の小型化につながる。
次に、炭素イオンビームを意図的に高温超電導コイルに入射し、これに伴う発熱で温度が上昇しても超電導状態が破れず、電磁石が安定動作することを実証。これにより、安定した運転が求められる医療用粒子加速器などへの応用が可能になる。
3つ目として、電磁石が発生させる磁界を繰り返し速く変化させても、高温超電導コイルの温度が変化せず、電磁石を安定して運転することを確認した。実験では、磁界を最大2.4Tまで120秒で上げ、120秒で下げることを繰り返した。この成果により、粒子線がん治療装置などで、磁界を変化させても安定に運転できるようになる。
今後、高温超電導電磁石の高磁界化や交流損失の低減などに取り組み、粒子線がん治療装置の小型化、省エネ化などを目指す。これにより、一般病院に粒子線がん治療装置を設置可能になる。また、今回の成果は、粒子線がん治療装置だけでなく、多様な粒子加速器の小型化、省エネ化につながるとしている。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
関連記事
- レクサスのホバーボードは超伝導で浮く、「上で立ったりジャンプしたりできる」
トヨタ自動車は、レクサスブランドの広告キャンペーン映像「SLIDE」のために開発を進めていた「レクサスホバーボード」の全容を発表した。地面から浮くホバー走行には、超伝導現象を利用している。 - 超伝導技術を用いた重粒子線がん治療用の回転ガントリー
東芝は、放射線医学総合研究所とともに、腫瘍に対して360度の任意の角度から重粒子線を照射できる回転ガントリーを完成させたと発表した。世界で初めて超伝導電磁石を採用し、従来の大型機器から大幅に小型化・軽量化することに成功した。 - 微弱な光でも明瞭なカラー画像を観察できる光子顕微鏡を開発
産業技術総合研究所は、従来の光学顕微鏡では観測できない微弱な光でも明瞭なカラー画像を観察できる「光子顕微鏡」を開発した。顕微鏡の光検出器に超電導光センサーを用いることで、光学顕微鏡の検出限界を大幅に超えることに成功した。 - 三洋HITの開発と20年前のGENESIS計画
小寺信良氏の次世代エネルギー連載。今回は、太陽電池開発のスタートが早かった三洋電機に、太陽電池の開発経緯と構造について聞いた。 - リニアモーターカーに続く超電導の活用、鉄道総研の描く夢
鉄道に関連する全ての技術を研究する鉄道総合技術研究所。2027年開業予定のリニアモーターカーも、同研究所から巣立とうとしている技術である。このリニアモーターカーで得た知見により、さらに幅広い領域への貢献が期待されているのがさまざまな「超電導」技術である。鉄道総合技術研究所の超電導技術について、小寺信良がお伝えする。