離陸する航空機電動化の時代――この転換期に日本製造業は飛翔できるか:モノづくり最前線レポート(3/4 ページ)
航空需要が飛躍的に高まる中、航空産業が排出する地球温暖化ガス削減は急務だ。また、空飛ぶクルマといった新たなモビリティも具現化しつつある。これらの実現を支える航空機電動化技術は日本製造業を大きく成長させる起爆剤となりえる。
電動化で新たに生まれるリスクをどう排除するか
西沢氏は航空機電動化によって新たに生まれるリスクについて、小型VTOL機と旅客機の双方で説明した。小型VTOL機では「従来の回転翼機で備えられているオートローテーション機能が小型VTOL機では存在しないため、推進系の故障発生時には即時に墜落してしまう。このリスクをどのように保証するか。また、騒音によって低空飛行が規制された場合、エアタクシー事業の採算性が悪化することが分かっている。よって騒音を減らすことも重要な課題」(西沢氏)と指摘する。
また、旅客機では高高度飛行に起因する絶縁破壊やシングルイベント効果による電気系統の故障発生リスク、離陸時など最大出力時間が長い事に起因する電気デバイスの過熱リスクを挙げる。
ECLAIRコンソーシアムではこれらのリスクに対応した技術課題を全高度共通、低高度、高高度に分類し、9項目として抽出した。特に全高度共通の課題である「高出力密度化」と「電池の安全性と高エネルギー密度化の両立」については定量的な数値目標も予測されている。この数値目標では、小型機に関しては現状技術に近い数値が掲げられているものの、旅客機については目標と現状で桁が異なるほどの大きなギャップが存在する。
西沢氏は「旅客機の電動化は技術リスクが非常に高い。旅客機の部品開発には相当な時間が必要なため、2050年(の航空業界が掲げる環境目標)に間に合わせようとすると2030年にはエンジン電動化技術を確立する必要がある。いまから技術開発をしないと間に合わない」と述べる。
一方で、航空機産業が根付いている欧米では既に業界を挙げて航空機電動化への取り組みを進めている。大手航空機メーカーのAirbusを例に挙げると、同社はハイブリッド実証機「E-Fan X」の開発計画を2017年11月に発表し、SiemensやジェットエンジンメーカーのRolls-Royceと協業を進めた。E-Fan Xは2020年の初飛行を目指しており、西沢氏は「航空機電動化に対する日本の動きは遅い」と危機感をにじませる。
そこで同団体では2点の技術展開シナリオを描き、これらを同時に推進することで航空機電動化の迅速な技術開発を目指す方針だ。1点目のシナリオ(旅客機電動化)では、旅客機電動化開発で高難易度の技術目標に挑戦しつつ、培った途中の技術の小型機やMEAへのスピンオフを狙う。そして、2点目のシナリオ(小型電動航空機)は、現在の技術を最大限に活用し低高度特有の課題を解決しつつ、小型電動航空機の社会実装を迅速に行うものだ。
同団体が策定した技術ロードマップでは、2020年代に旅客機で実証や認証取得面も含めたMEA技術の習得を、小型機ではエンジン故障や騒音問題に対するブレイクスルーを達成し運航開始まで到達することを描いている。
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