LOVEをはぐくむロボット「LOVOT」は先端技術満載、デザインは根津孝太氏:ロボット開発ニュース(2/3 ページ)
ロボットベンチャーのGROOVE Xは、2015年11月の創業から約3年をかけて開発してきたロボット「LOVOT(らぼっと)」を発表。「人の代わりに仕事はしないが、一緒にいるとほっとする、うれしくなるロボット。LOVOTは人の愛する力を育むことができる」(同社 代表取締役の林要氏)という。
「LOVEをはぐくむ」ための先進技術の数々
LOVOTの特徴は「まるで生き物のような生命感がある」「信頼関係を結ぶことができる」「社会性を感じられる」「人間の仕事の代わりはしない」「人と人とのコミュニケーションを加速させる」などとなっている。これらの「LOVEをはぐくむ」ための特徴を実現するためさまざまな先進技術を搭載した。
外形寸法は幅255×高さ430×奥行255mmで、重さは「生後1カ月の子供と同じ」(林氏)3.3kg。これらは、LOVOTを抱きかかえることを前提とした設計の仕様になっている。またLOVOTを抱きかかえて、おなかやあご下の部分をさすると、心を開いて安心し、寝るなどの反応を取る。さすることによる反応を実現するために、全身にタッチセンサーが備えられている。
LOVOTから生命感を感じ取れるよう開発に注力したのが目だ。まぶたも含めた視線の動き、瞬きの速度、瞳孔の開きまで緻密に設計し、6層構造のアイディスプレイへの映像投影で再現した。その投影パターンは10億通りに及ぶ。声についても、多くのロボットで採用している録音した音声の再生ではなく、気道のシミュレーションに基づいて音を動的に生成するプロシージャル生成を採用している。そのためのスピーカーも自社開発した。
生命感については動きの良さも重要であり、そのためにインホイールモーターを用いた車輪による移動を採用している。時速2〜3km程度の速度で移動できるため、ユーザーを認識すると同時に駆け寄ってくるようなイメージの動きが可能だ。また、LOVOTで重要な抱きかかえの際には、車輪を本体内部に収納するので、ユーザーの服を汚すことはない。
LOVOTの頭部にある特徴的な「センサーホーン」は、周辺認識などを行うための照度センサー、半天球カメラ、半天球マイク、サーモグラフィーなどを内蔵している。自社開発の半天球カメラの映像を使って行う人の検出は、ディープラーニングによる顔認識アルゴリズムで実現している。また、マーカーなどを使わずにカメラ映像によってSLAM(Simultaneous Localization and Mapping)であるVSLAM(Visual SLAM)による3Dマッピングで、部屋の内部の状況を把握する機能も有している。
センサー類は、タッチセンサーやセンサーホーンの他にも、測距センサーや深度カメラ、気圧センサー、温度センサー、姿勢センサー、NFC、障害物センサーなど多数搭載している。インホイールモーターを含めた合計13自由度の駆動部により、「LOVEをはぐくむ」ためのかわいさを持たせるための動きを実現している。
「Core i5」に加え「Zynq Ultrascale+ MPSoC」も
これらの「LOVEをはぐくむ」というコンセプトを実現する機能を制御しているのが、頭部に組み込まれているコンピュータで、メインボードとサブボードで構成されている。メインボードのプロセッサは、4コア構成のインテル「Core i5 8000シリーズ」と8GBのRAMを搭載するなどノートPC相当の性能を持つ。そして、サブボードは、ザイリンクスの最先端プログラマブルSoC「Zynq Ultrascale+ MPSoC」と4GBのRAMを搭載している。このZynq Ultrascale+ MPSoCのFPGA回路部をアクセラレーターとして、先述のディープラーニングによる顔認識アルゴリズムが実装されている。
さらに、エッジサーバとLOVOTへの充電の機能を備える「ネスト(巣)」は、2コアのインテルプロセッサと8GBのRAM、1TBのストレージを搭載している。
これらの高性能ハードウェアを採用することもあり、LOVOT本体の消費電力は約50Wに達する。搭載するバッテリーの容量は89Whなので、45分間稼働、15分間充電という稼働サイクルになる。
コンシューマー向けロボットにノートPCと同等のプロセッサを搭載することは異例だが、高価なプログラマブルSoCであるZynq Ultrascale+ MPSoCの搭載はさらに異例といえる。加えて、FPGAをディープラーニングのアルゴリズムのアクセラレーターとして用いるコンシューマー向け製品も、現時点ではほぼ存在しない。直接人に役立つ機能を持っているわけではないが、LOVOTは最先端テクノロジーが詰め込まれていると言っていいだろう。「妥協なく作ったが、それをほぼ製造原価と言っていい価格で販売する」(林氏)ことからも、かなりのコストがかかっていることが分かる。
林氏は「LOVOTのようなロボットの産業は、自動車産業並みに大きく、ペット産業よりも大きくなると考えている。“LOVOT産業”を日本発の新産業にしたい」と述べている。
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