ソニーが「発明」した新しい音体験、「ウェアラブルネックスピーカー」の秘密:小寺信良が見た革新製品の舞台裏(11)(3/4 ページ)
ここ最近注目を集めている「ネックスピーカー」というオーディオの新ジャンルを生み出したのが、2017年10月発売のソニーのウェアラブルネックスピーカー「SRS-WS1」だ。今回は、このSRS-WS1の開発に関わったメンバーに話を聞いた。
「タブーを気にせず、取りあえず作ってみた」
―― 耳元でスピーカーを鳴らすというコンセプトは、ソニーでは以前パーソナルフィールドスピーカーの「PFR-V1」※)という商品がありました。スピーカーを近くで聴かせるとなれば、普通は耳の横で鳴らすというのがストレートな発想かと思うんですが、下から耳にめがけて音を立ち上げるというのは、なかなか難易度が高いと思うんです。
澁谷 われわれテレビ部隊にはもちろん音の専門家っているんですけれども、本当にイヤフォンとかを開発しているわけではないので、まず「音ありき」ではないんです。まずは「装着感ありき」で、そこからある意味タブーとか気にせず、取りあえず作ってみてどうなんだっていうところから始めているところがありますね。やれることは何でもやってみようと、プロトタイプはすごくたくさん作りました。
実は初期段階では、片側にスピーカーを2個、計4個入れていたんです。スリットもこんなに広くなくて、狭いスリットが上の方に向いていただけで。
それを首にかけて、ちょっとこう首を動かすと、全く音の聞こえ方が変わってしまうんですよね。このレベルじゃちょっと商品にならないなということで、音が出る幅を広げなきゃいけない、加えてスピーカー2個だと重いというので1個に減らし、なおかつスリットを長く広げることにしました。
―― スピーカーの位置は、ユニットの先端にあるようですが、これはなるべく遠くへ置いた方が、首の動きに対して音を均一化できるという事ですか?
澁谷 いや、それよりもスリットを長くとって音を広げるという発想なので、一番手前に持っていくよりは、一番遠くへ持っていって、スロープで人の方へ向けて音を出す方がいい。その方が、距離感が均一になりますので。
伊藤 このスリットの中に、特徴的なカーブのスロープがあるのが分かりますか。このスロープの形が非常に重要なんです。ここがホーンスピーカーの断面のような形状になっていまして、これが音を広げて行くんですね。
澁谷 こういう形状で作ってみて実際に映像作品を鑑賞してみたところ、本当に音に包まれる感じがあったんですね。そこで初めて、なんとか商品になるかな、という感触が得られました。それまでは、まぁモノにならないんじゃないかと思っていましたので。この発見からだんだん、これならいけるという感触がつかめましたね。
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