20XX年某月某日の某社加工現場を訪ねてみた:【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年9〜10月のサブテーマは『3D化とIT化は本当に後継者育成の鍵になるのか」を考える』です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年9〜10月のサブテーマは『3D化とIT化は本当に後継者育成の鍵になるのか」を考える』です。
SCENE 5:20XX年某月某日の某社加工現場を訪ねてみた
>>前回:未来人が語った、「AIやロボットとともに働くボクの加工現場」
恐る恐る招待状に従ったら、あれからジャスト168時間後、私は無事に20XX年に移動できました。景色はどこか見覚えがあるのですが、明らかに自分が生活している時代ではありません。数分後、招待してくれた彼がやってきて職場へ連れて行ってくれました。
その時代では、スマ―トフォンやタブレットはとっくにレガシー扱いで、常時身に着けている、AIが搭載されたウェアラブルデバイス1つでそれ以上の用が足りるというのです。そのデバイスは充電は不要で、24時間持ち主の頭脳と同期して学習しているのだとかで、それに基づいてAIがある程度の意思決定を行える上に、思い浮かんだ図形や言葉を自動的にメモに残したり、計算をしたり同時通訳までしてくれるので、職場の外国人とのコミュニケーションにも全然不自由しないそうです。
「便利そうだけど、AIに思考を乗っ取られるような怖さはないのか」と私が尋ねると、彼は笑いながらこう漏らしたのです。「このデバイスはボクのクローンです。ボクに万が一のことがあった時のバックアップなので」と。なんだか少し、ぞっとしました。
工場内の人影はまばらで、整然と並ぶマシニングセンタは最低でも5軸。中には8軸、10軸という機種もあり、その全てがAI搭載です。前回お話した、加工中のツール折れ防止の制御の他、常に加工精度が一定内に収まるように自動補正される仕組みになっているようです。
作業を補助するAIロボットには、3Dデジタイザのような機能があります。目的の形状と寸法、公差を入れた“正確な3Dデータ”をインプットするだけで、AIロボットが自動検査を行いながら最終工程までオペレートしてくれるという流れになっています。見たところ、機械の操作パネルのボタンをタッチするのもAIロボットの仕事のようで、ほぼオートメーションになっています。
この時代では、3軸のマシニングセンタは「メタルAM」という積層造形装置の一機能として搭載されています。この装置は、いわゆる金属3Dプリンタです。この工場では、数種類の単品部品を一度に作るためにこの装置をよく使用しているそうです。
なんと、ボール盤と汎用旋盤と汎用フライスはここにもありました。やっぱりごく単純な加工には汎用工作機械が最適なのでしょう。少しホッとしました。
「ご覧頂いた通り、将来の現場はこういう姿になるのです。温かみはないかも知れませんが、現在この国の人口は8000万人を切っていますから、生産を維持するために人間の労働範囲が効果的に絞り込まれています。ここでは一人ひとりが持ち場の責任者で、代わりはいません。だから全員このデバイスを身に着けているのです」。
「万が一のバックアップとはそういう意味でしたか……」
「今のボクの役割は生産技術です。オートメーションは、工程設計がデタラメだったら全然正しく機能しない。でもモノづくりの現場知識を持っていないと、何がどうデタラメなのかも分かりません。だからボクは、共同企業体の私設機関で、まず機械加工を学んだのです。その機関の前身は、あなた方の時代にできた“町工場コミュニティー”なんですよ。実はこの工場は、かつて後継ぎ問題で廃業寸前だったそうです。でも、コミュニティーのおかげで優秀な後継者に恵まれて、廃業の危機を乗り越えられました。ボクがこうして働けるのは、あなた方のおかげなのです。今からでも、技術と人材を生かして残すためにリソースを割くことができる工場は、きっとボクが働くこの時代でも存在できると思います」
その直後から記憶はなく、気がついたら私は最寄り駅のホームに立っていました。時計を確認すると、初めにホームで立っていた時刻からちょうど90分後を示していました。
「滞在時間は90分以内というルールなんです」。そういえば、そんなことを言っていたっけな。
次回は、実在する町工場コミュニティを訪問! その実態をレポートします。(次回へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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