未来人が語った、「AIやロボットとともに働くボクの加工現場」:【週刊】ママさん設計者「3D&IT活用の現実と理想」
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年9月のサブテーマは『3D化とIT化は本当に後継者育成の鍵になるのか」を考える』です。
まるで週1の連続ドラマのような感覚の記事、毎週水曜日をお楽しみに! 今期のメインテーマは「設計者が加工現場の目線で考える、 3DとIT活用の現実と理想のカタチ」。2018年9月のサブテーマは『3D化とIT化は本当に後継者育成の鍵になるのか」を考える』です。
SCENE 4:未来人が語った、「AIやロボットとともに働くボクの加工現場」
>>前回:町工場コミュニティーの結合による新しいメーカーの形を考えてみる
夢かうつつか、ある日自らを「未来人」と名乗る若者と接触する機会がありました。その未来人は現代の日本語が話せたので、どうやらあまり遠すぎない未来からやってきたようです。
彼はその時代の部品加工業で働いていて、仕事中にふと思うところがあり、昔の加工現場の実態が知りたくなってここへやってきたと言うのです。「滞在時間は90分以内というルールなんです」という一方的な条件の中で、近場の加工工場へと案内しました。
「なるほど! 伝聞や記録から過去の機械加工の様子は知っていたものの、実際に現場を見るとやっぱり人手による作業が多いですね。まるでロボットのような人もいる」
「なるほど! 工程別に機械が変わるし、そこに必ず人が介入するのはこの時代では当たり前なんですね」
「なるほど! これが伝説の自動プロとフロッピーディスクですか! 感激ですー! 動いている実物が見られるなんて」
――彼は「なるほど。なるほど」を繰り返しながら、博物館を見るように熱心に現場を歩き回っていました。
一通り見学した後、彼は勤務先の工場の様子を話してくれました。そこではワーク搬送や梱包用の単機能ロボットと、人間さながらに機械へのワーク脱着や検査と選別を行うAIロボットと一緒に仕事をしているそうです。
加工では「段取り換え」という作業は一切なく、1回のチャッキングで切削の最終工程まで持っていけるということです。長時間の加工であっても、途中でツールが折れることは皆無で、ビッグデータ活用とAIの学習によって、工作機械自身がツールを折らないように随時自動制御を行うということです。しかも、彼の時代ではどのメーカーの機械でもその仕様が標準装備で、そうしないとネットワークに自社の機械の加工情報をタイムリーに載せることが出来ないからだと言います。つまり、ほぼ全ての工場がインターネットでつながり合って、モデルデータや加工データだけでなく、運用データや事故情報までを共有する社会の中で、モノづくりを行っているということです。
「それもこれも、皆さんの時代からのデータの蓄積と技術の承継システムがあるおかげです」と彼は言いました。
彼の時代でも、工程設計とCAMで作った加工プログラムの微調整、機械加工後の仕上げや磨き作業は人の手で行われているそうですが、こうした人間特有の技能については、それを保護して伝授していくための、国家基準に沿った段級位制があるそうです。
AIやロボットが何十年かけて進歩しても人間のアナログ感性にはなかなか追い付けないらしく、人間でなければ出来ない仕事とロボットやAIに任せる仕事の境界がはっきりしているようです。
「とても勉強になりました。でも、そろそろタイムリミットなので帰ります。代わりに今度はボクの時代の加工現場に招待しますよ」。そう言って、一枚のカードを手渡してくれました。
「ちょっと待ってくださいよ!」と思ったら、もうそこに彼の姿はありませんでした。何とも信じ難いことですが、そもそも未来人を工場見学に連れて行ったことすら不思議な話ですし、不思議ついでに勇気を出して行ってみましょうか……。
次回は『20XX年某月某日の某社加工現場を訪ねてみた』をお届けします。いざ、未来の加工現場へ……。(次回へ続く)
Profile
藤崎 淳子(ふじさき じゅんこ)
長野県上伊那郡在住の設計者。工作機械販売商社、樹脂材料・加工品商社、プレス金型メーカー、基板実装メーカーなどの勤務経験を経てモノづくりの知識を深める。紆余曲折の末、2006年にMaterial工房テクノフレキスを開業。従業員は自分だけの“ひとりファブレス”を看板に、打ち合せ、設計、加工手配、組立、納品を1人でこなす。数ある加工手段の中で、特にフライス盤とマシニングセンタ加工の世界にドラマを感じており、もっと多くの人へ切削加工の魅力を伝えたいと考えている。
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