日本発のユニコーンは生まれるのか、支援する政府の取り組み(後編):モノづくり最前線レポート(1/2 ページ)
イノベーションジャパン(大学見本市&マッチングフェア、2018年8月30〜31日、東京ビッグサイト)のNEDOセミナーでスタートアップに関連した4つの講演が行われた。後編ではNEDOによる海外の取り組みを紹介する2講演の内容をお伝えする。
イノベーションジャパン(大学見本市&マッチングフェア、2018年8月30〜31日、東京ビッグサイト)のNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)セミナーでスタートアップに関連した4つの講演が行われた。前編では、経済産業省および日本貿易振興機構(JETRO)の取り組みを紹介したが、後編ではNEDOによる海外の取り組みを紹介する2講演の内容をお伝えする。
勃興するフレンチテック、日本が参考にすべきグローバル化
最初にNEDO 欧州事務所主任の半沢弘毅氏が「フランスにおけるスタートアップ支援策について」をテーマに、フランスのスタートアップ支援策「La French Tech(フレンチテック)」の最新状況を解説した。
欧州でもスタートアップの動きは活発になっているが、その中でも特にフランスは積極的な取り組みを見せる。自国のスタートアップへの投資金額、件数は2014年から2017年にかけての3年間で3倍以上に増えている。その結果、2017年で26億ユーロの資金がスタートアップに投入された。この額は英国には及ばないものの、 件数ではドイツを上回る結果となっている。
分野別では「フランスは数学に強いということもあり、AI、ビッグデータ、デジタル関係が多い」(半沢氏)。代表的な企業としては、ライドシェアのマッチングシステムを提供するBlaBlaCarがある。同社はユニコーン企業(企業の評価額10億ドルを超えるで非上場のベンチャー企業)の1つとなっている。また、低い周波数帯を使って省エネ・低価格のLPWA(低消費電力広域)を提供するSIGFOX(シグフォックス)なども注目を集めている。
これらスタートアップの活動をさらに活性化するための大規模イベントなども開催。こうした活動を盛り上げているのが、フランス政府が取り組んでいる施策「La French Tech(フレンチテック)」だ。フランス国内のスタートアップ活動のブランド化を目指し、同政府が2013年に提唱したもので、この施策のもとにさまざまな政策や取り組みが進められている。現在のフランス大統領であるエマニュエル・マクロン(Emmanuel Macron)氏が経済・産業・デジタル大臣だった当時から推進してきたもので「フランスをスタートアップの拠点に」という強いメッセージを内外に発信している。
このフレンチテックの取り組みの中で、半沢氏が特に注目しているのがグローバル化支援だ。「海外の優秀な人材をフランスに呼び込むための取り組み」(半沢氏)であり、その中には海外の企業がフランスで起業する場合の優遇策「French Tech Ticket(フレンチテックチケット)」がある。4万5000ユーロ(約600万円)の起業資金の提供や起業するためのオリエンテーション、インキュベーション施設での12カ月間の活動、アクセラレータプログラムへの参加などがパッケージ化されており、これまで2回の募集で延べ65の国や地域から合計93社が利用している。
この他、ビザ手続きを簡素化・迅速化する制度「French Tech Visa」や、海外へのプレゼンス向上のために、世界22都市にフレンチテック推進のためのハブ組織「French Tech Hub」なども設けている。半沢氏はこうした取り組みとともに「2018年6月に4億ユーロの公的資金を投入し、ファイナンス支援を発表するなど、新しい動きなども次々に加えられている」と最新情報も付け加えた。
民間での取り組み「Station F」
フランスではこうした政府による支援策が充実している一方で、民間ベースでもさまざまな取り組みが行われている。その代表的な取り組みとして「Station F」がある。「Station F」は、2017年6月末にオープンした世界最大クラスのスタートアップインキュベーション施設で、3Dプリンタやレーザーカッターなどの共同利用が可能。MTGルーム、イベントスペース、カフェなども併設している。通信大手イリアッド(現Free)の創業者グザヴィエ・ニエル氏が私財2億ユーロを拠出し、パリ市内にあった駅の廃屋を用地として買収。リノベーションをして設立した。2018年6月時点で合計1034社のスタートアップが入居している。なお、現在5000万ユーロを追加し最大600人収容可能な住居を建設しているという。
ここでは、Station Fが提供するプログラムの他、マイクロソフト、ロレアルなどの企業30社以上が提供するプログラムが用意されている。さらに国立公的投資銀行や情報処理及び自由に関する国家委員会、工業所有権庁、社会保険庁、雇用局など公的なサービス期間の窓口が設置されており、日常の活動をきめ細かく支援していることが特徴である。
これまでに232のスタートアップが資金調達に成功し、その合計額は推計で2億5000ユーロ以上に上るとみられる。また、1年で8つのスタートアップが大手企業などに買収されるなどの成果が出ている。
フランスの今後の取り組みとしては、政府が5年間の投資計画を発表しており、その中で46億ユーロが競争力強化・イノベーション創出支援に割り当てられる見込み。引き続き、積極的にスタートアップの支援や創出に取り組む姿勢を示しているという。
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