中小製造業のIT導入による労働生産性向上と見えてきた課題:2018年版中小企業白書を読み解く(2)(3/5 ページ)
中小企業の現状を示す「2018年版中小企業白書」が公開された。本連載では「中小製造業の生産性革命は、深刻化する人手不足の突破口になり得るか」をテーマとし、中小製造業の労働生産性向上に向けた取り組みを3回に分けて紹介する。第2回は中小製造業におけるIT利活用による労働生産性の向上について取り上げる。
中小企業におけるIT導入の課題は「費用対効果」と「人材」
それでは、実際に中小企業においてITの導入・利用を進めようとする際に、どのような点が課題になってくるのだろうか。回答比率の高い順に見ると、「コストが負担できない」「導入の効果が分からない、評価できない」が約3割と高く、次いで「従業員がITを使いこなせない」が約2割と続く(図8)。以上のことから、費用対効果と人材面の2点が主な課題であることが分かる。
IT導入の3類型別に見ると、この傾向はIT導入が効果を上げているトップ層でも、IT導入が進んでいないボトム層でも大きくは変わらない。ただ、ボトム層では比率が高いことが分かる(図9)。一方で「個人情報漏えいのおそれがある」と「技術、ノウハウの流出のおそれがある」は、ボトム層よりもトップ層の方が課題として挙げていることから、IT導入が進むにつれて顕在化する課題と推察できる。
IT導入促進におけるクラウドサービスへの期待
ここで最大の課題がコスト負担であることを踏まえると、今後の中小企業におけるIT導入においては、初期導入コストの低さなどが鍵になってくると思われる。中小企業白書2018ではこの点をクリアする解決策としてクラウドサービスの活用を挙げており、その利点として初期導入コストの低さを含め、下記の4点を挙げている。
- サーバなどの設備を自ら保有することが不要。技術者の常駐も不要 → 導入が比較的容易
- 初期導入コストが低い(月額数千円〜。オンプレミス型は導入で数千万円かかる) → 導入に失敗しても撤退が容易
- データ連携によっては予約情報から売上高データを生成でき、日々の決算が可能になる → 経営者に「経営を考える時間が与えられる」
- 企業間連携ツールとしてはクラウドサービスの方がやりやすい
これらの利点を挙げたうえで、中小企業白書2018ではコスト負担以外に技術者の駐在が不要になる点も大きいとしている。その根拠として、今後はIT人材の不足数の拡大が予想されており(図10)、それに伴ってIT業界や大企業にIT技術者が流れ込む可能性が高いとするならば、非IT系の中小企業がITの開発や運用管理を行うIT技術者を確保することがより一層困難になることが挙げられている。
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