日本がSociety 5.0を実現するために解決すべき課題とは何か:経済財政白書2018を読み解く(後編)(1/4 ページ)
内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。この経済財政白書の第3章「Society5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。後編ではSociety 5.0により必要になる日本企業の取り組みについて紹介する。
内閣府はこのほど平成30年度年次経済財政報告(経済財政白書)を公表した。今回の白書は、副題を「今、 Society 5.0の経済へ」とし、第4次産業革命による「Society 5.0」の実現を明確に目標として示したことが特徴である。この経済財政白書の第3章「Society5.0に向けた行動変化」を2回に分けてまとめた。
前編ではSociety 5.0の概要や第4次産業革命による産業変化について紹介した。後編では日本が国際的にみて優位性を保つため、日系企業やそれを取り巻くビジネス環境にはどのような変化が求められるか、また、イノベーションの進展における影響などを紹介する。
イノベーションの基礎力における日本の現状
第4次産業革命に向けたイノベーションを実現する力について、経済財政白書では以下の2つの要素に分けて紹介されている。これらの2つの大きな要素において、国際比較を交えながら日本の強みと弱みを解説する。
- 知識、人的資本、技術力、研究開発などの「イノベーションの基礎力」
- 組織の柔軟性、起業家精神、ルール・制度などの「イノベーションへの適合力」
技術的イノベーションの源泉となる基礎研究や応用研究、開発などに携わる研究者の数をみると、雇用者1000人当たりの研究者数は、日本は10人となっており、OECD加盟国の平均である8人より多い。OECD諸国の中では11番目の高さとなっており、英国や米国、ドイツといった国よりも多い。
また、研究者の活動の場について、企業もしくは政府、学術研究機関などに分けてみると、企業研究者の割合は73%となっており、イスラエル、韓国に次いで、世界第3位となっている。ただし、日本の研究者の大きな特徴として、国際間での流動性の極めて低いことが挙げられる。海外からの流入者が研究者全体に占める割合(2016年中)は、日本は1%であり、主要国の中では、英国の7%、ドイツの4%、アメリカの4%と比べて極端に低い。同様に、海外への流出者が研究者全体に占める割合についても、日本は3%となっており、英国の9%、ドイツの7%、米国の5%と比べて、やはり低くなっている。
研究開発費の比率は高い
次に、イノベーション活動そのものともいえる研究開発費の動向を確認する。国全体の研究開発支出の大部分を占める、企業の研究開発支出の対名目GDP比率をみると、日本は2016年で2.5%となっており、米国の2.0%、ドイツの2.0%といった他の主要先進国と比べて水準が高めとなっている。また、企業規模別では、各国とも大企業が中心となっているが、日本の大企業が占める割合は約9割と、他国と比べても高いことが特徴である。
一方、研究開発資金の調達元をみると、日本の企業は他の先進国企業と異なり、海外や政府からほとんど調達していない。これは、日本の企業が自社内での技術開発を重視する「自前主義」の傾向が強い可能性を示唆している。
日本の企業の研究開発活動の特徴は、企業内での研究開発が漸進的なものにとどまり、革新的な製品開発に慎重な可能性があるといえる。民間機関による企業アンケート調査によると「既存の製品やソリューションを改良する漸進的イノベーション」と「新しく市場に対する破壊力を持った製品を投入する革新的イノベーション」のどちらのアプローチが当てはまるかを聴取したところ、漸進的なアプローチと回答した企業の割合は日本では7割超となり、他の国と比べても相対的に高くなっている。
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