それでも製造業にとって“スマート工場化”が避けては通れない理由:いまさら聞けない第4次産業革命(25)(3/4 ページ)
製造業の産業構造を大きく変えるといわれている「第4次産業革命」。本連載では、第4次産業革命で起きていることや、必要となることについて、話題になったトピックなどに応じて解説していきます。第25回となる今回は「そもそもスマート工場化って必要なの?」という点について考察してみたいと思います。
それでもスマート工場化は必要なのか
印出さんは製造業にとってスマート工場化にはさまざまなアプローチが存在すると訴えています。
ライヴァル製作所の社長さんの話は正しいんだけど、スマート工場を否定したいために見えなくなっている部分があるわね。
どういうことですか?
先述した通り、スマート工場化は道具であり、手段です。では、スマート工場を道具とした場合、目的は何になるでしょうか。具体的な目的については、企業ごと、工場ごとに異なりますが、大きく分けると、スピードやコスト、柔軟性なども含む生産性の抜本的向上と、品質の向上、人手不足の解消などが挙げられると思います。
これらの目的はまさに製造現場にとっての永遠の命題です。考えなければならないのは、そこに至るアプローチが複数存在するということです。スマート工場化によって実現を目指してもよいですし、既存の設備や人員に工夫を求めて到達に近づけようとしてもよいということなのです。
ただ、これらの多様なアプローチが可能な状況を踏まえても、印出さんは「スマート工場化は避けて通れない」と主張しています。
道のりは異なっても最終的なゴールはほぼ同じよ。インダストリー4.0などで目指す1個1個の製品を大量生産の効率性で実現する「マスカスタマイゼーション」が現状で目指す理想の姿だとされているわ。これを実現するためにはスマート工場化は前提となるもの。
マスカスタマイゼーションを実現するためには、サプライチェーンやエンジニアリングチェーンなどモノづくりに関する各種システムをシームレスに連携する必要があります。それだけではなく、物理的な生産ラインも受発注に合わせて柔軟に変更できるような仕組みが必要になるのです。このデジタルの世界とフィジカルの世界を緊密に連携させることができなければ、マスカスタマイゼーションは実現できません。その意味でスマート工場化は工場の高度化を進める上で、どこかで取り組まなければならない通るべき道だといえるのです。
さらに印出さんは指摘します。
気を付けなければならない点は、目先の生産性などに目くらましされて、伸び代を見逃してはいけないという点ね。スマート工場化によるデジタルの価値なしに、抜本的な改善は可能なのかしら。
実際にドイツのある工場で見た工場は、日本の工場とは異なり、「5S(整理、整とん、清掃、清潔、しつけ)」や「3定(定位、定品、定量)」も行き届いておらず、設備稼働率も低い機器が散見されるなど、高レベルの製造現場とはいえない状況でした。しかし、その工場はスマート工場化を進め、あらゆる機器の稼働率や生産のスループットなどをリアルタイムでどこからでも誰でも確認できるようになっており、それらをドリルダウンして遠隔地からも原因把握ができるようになっていました。さらに、あらゆるデータを一元化しているために、工程間の滞留状況なども把握できるといいます。
確かに現状は、日本の製造現場と比べるべくもない状況かもしれません。しかし、スマート工場化で、工場の情報全てが見えるようになれば、当然改善ポイントも見つけられるようになります。そして、その改善ポイントに対し、リアルタイムの数値を見ながら、PDCAサイクルを回していけば、必ずそれらは高度化していくことになります。こういう“伸び代”を見ても、果たして「スマート工場化は必要ない」といえるのでしょうか。筆者は、日本の強みが生かされている間に、こうしたデジタル化やスマート工場化の強みをできる限り早く取り込むことが重要ではないかと考えます。
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