日本の積層造形の取り組みは周回遅れ、今から世界に追い付くには?(前編):金属3Dプリンタ(1/2 ページ)
金属3Dプリンタの最新動向や課題を語る「Additive Manufacturingのためのシミュレーション活用セミナー」(サイバネットシステム、アンシス・ジャパン主催)が2018年7月4日に東京会場、5日に名古屋会場で開催された。
金属3Dプリンタの最新動向や課題を語る「Additive Manufacturingのためのシミュレーション活用セミナー」(サイバネットシステム、アンシス・ジャパン主催)が2018年7月4日に東京会場、5日に名古屋会場で開催された。
セミナーでは、近畿大学教授で技術研究組合次世代3D積層造形技術総合開発機構(TRAFAM)プロジェクトリーダーの京極秀樹氏が世界の最新動向や造形研究について紹介。またアンシスの造形シミュレーションやトポロジー最適化およびラティス構造ソフトウェアについても紹介された(前編で紹介)。
サービスビューロの金属技研や積層造形装置を提供する愛知産業は、金属3Dプリンタの現状や課題を語った(後編で紹介)。
世界の最新動向を紹介
近畿大学の京極氏は、講演の冒頭で世界の学会の動向を紹介した。SFF(Solid Freeform Fabrication) Symposiumは、Additive Manufacturing(AM)の分野では最も歴史のあるシンポジウムになる。2017年は例年より会場規模が拡大し、欧州の装置に関する話題に加えて米国による事例発表が増えたという。
欧州で開催されるEuroPM(Powder Metallurgy、粉末冶金)2017では、2016年における金属AM装置の販売台数が全世界で約1000台、稼働台数は約3500台であることが報告された。一方、実際の使用状況の目安となる金属粉末の製造量は、2015年実績が約700トンで、2023年は約4700トンとかなり大きな予測がなされた。
またシンポジウムの基調講演にはGEが登壇した。「この分野はGEが引っ張っていると言っても過言ではない」(京極氏)といい、GEが熱間等方圧加圧(Hot Isostatic Pressing、HIP)とバインダージェット(BJ)の組み合わせやデポジション装置、直接金属レーザー溶融(DMLM)、電子ビーム溶融(EBM)装置などの研究を進めていることや、2025年までにBJを50台、DMLMを30台導入する計画が紹介された。
最近はさまざまな造形例が出てきており、後加工も重要になってきているという。またいずれ自動車業界の動きが活発になるだろうと考えている。「自動車はレーシングカーや少量生産品への適用が出始めている。ティア1企業での取り組みも聞こえており、いずれ新たな企業の発表が出てくるだろう」(京極氏)。
BJやFDM方式も広がる
積層造形全体の状況としては、樹脂が最も多く、金属が続く。また難易度が高いが、セラミックスやバイオ材料の取り組みもある。どのように組み合わせるかは不明だが、米国のロードマップ中にスマートマテリアル(外部からの変化に対して反応する材料)の言及もあり、マルチマテリアルも進むとみられるということだ。
金属のAM技術の方式については、粉末床溶融(SLM)方式が主流となっている。また最近、レーザーメタルデポジション(LMD)方式で非常に良い造形例が出てきているという。大型部品を作る際、現状だと9割の材料を捨てているため、LMDはかなり重要になるだろうという。BJについては数年前に盛り上がったものの、思ったより密度が上がらないことから、間接法だということで下火になった。現在は砂型の造形に使用されているが、再び金属に取り組む例も出ている。「バインダーについては化学メーカーと協力することが必要ではないか」(京極氏)という。微細加工は難しいかもしれないが、熱溶解積層(FDM)方式も今後増えるかもしれないという。
ハード、ソフト、材料とも発展途上
AMにおいては「装置、ソフトウェア、材料の3つがそろわなければうまくいかないというのが実感」(京極氏)。粉末床(PB)方式については、レーザーがCO2からファイバーに代わったことで本格的に使えるようになった。現状はPD方式はレーザーが1kWと高出力化するとともに、2台あるいは4台というように多光源化している。造形サイズは1メートル四方などとなっている。アルミニウムが造形できるのもファイバーのおかげだ。注目度の高い材料でできていないのは純銅で、まだ密度が上がり切っていないという。またジュラルミンにも対応できていない。粉末材料については、装置によって使用できる粉末特性が大きく変わるのが苦労する点ということだ。管理もかなり重要になる。
ソフトウェアについてもハードと同様まだ伸びしろがあり、今後大きく動くと考えられる。トポロジー最適化についてはかなりのCADソフトに付属するようになっている。「溶かして冷えて固まる」という工程を知る際に、シミュレーションは欠かせない。どういったサポートを立てればよいかといった点でも、今後シミュレーション技術は重要になってくるだろうという。
造形時に何が起きているかを把握する
京極氏はメルトプールのシミュレーション例についても紹介した。図1がステンレス材料においてレーザー出力条件を変えた場合の実験とシミュレーションの結果である。レーザー出力が適正であれば、メルトプールが真っすぐできて1000分の4秒くらいで素早く固まる。すると小さい結晶粒となって丈夫になるため、通常の熱処理で問題はない。レーザー出力が低すぎるとメルトプールがあちこちに動いてスパッタが生じてしまう。出力が高すぎると大きく波打ち溶けすぎるので、大きなスパッタリングが飛散する。
京極氏は「こういった現象をきっちりと観察しておくことが重要」だと述べた。トラックの幅やスパッタやガスポア、キーホールなど、またレーザーパスの折り返しのところは欠陥が出やすいなど、どんな条件で何が発生しているのかを把握しておくと対処できるようになる。またシミュレーションを使用することで、どのような条件にすれば欠陥が出なくなるのかが分かる。
現在の技術および製品レベルとしては、試作品、3次元複雑形状品、機能付与3次元複雑形状品、高機能付与(スマートマテリアル)製品の段階に分けると、日本の現状は2段階から3段階目になる。欧米では国の支援も受け4段階目へと進めつつある。
「分野によってはメジャーな加工技術になってきたのではないかと思う。一方で世界各地で国やメーカーが組んで開発を進めており、今頑張らなければ太刀打ちできなくなるのではないか」(京極氏)。
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