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エビデンスの質が問われる糖尿病領域のモバイルヘルス海外医療技術トレンド(36)(1/2 ページ)

日本でも注目されている糖尿病治療向けモバイルヘルスアプリケーションだが、米国ではリアルワールドエビデンスの質をどう上げるかが課題となっている。

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 日本でも注目されている糖尿病治療向けモバイルヘルスアプリケーションだが、米国では、リアルワールドエビデンスの質をどう上げるかが課題となっている。

米国で実施された糖尿病自己管理用モバイルヘルスアプリケーション評価

 2018年5月8日、米国保健福祉省(HHS)の医療研究・品質調査機構(AHRQ)は、「糖尿病自己管理用途モバイルヘルスアプリケーション」と題する報告書を公表した(関連情報)。

 これに先立ち、AHRQは、2017年7月12日、モバイルヘルスの介入によるアウトカム評価研究の一環として、「糖尿病向けモバイルヘルス」と題する研究プロトコルを公表している(関連情報)。この研究では、急速なタイムラインで製品の開発・評価を実施し、糖尿病自己管理用途のモバイルヘルス利用に関するインフォームド・チョイス(説明を受けたうえでの選択)を行う意思決定者を支援することを目的として、以下のような質問項目を挙げている。

  • Q1:糖尿病自己管理向けに、どのようなモバイルヘルス固有の技術が研究されてきたか
  • Q2:モバイルヘルス固有の技術の特徴(例.相互運用性、機能、アクセシビリティー/ユーザビリティ、電子健康記録への接続)は何か
  • Q3:モバイルヘルス固有の技術利用に関連して、どんな患者アウトカムがあるか
  • Q4:モバイルヘルス固有の技術利用に関連して、どんな害や費用があるか

 図1は、この研究の分析フレームワークを示している。調査対象製品は、成人の1型および2型糖尿病患者向け自己管理モバイルヘルスアプリケーションで、技術による相互作用、患者に重要なアウトカム、健康アウトカムまたはその他の文献調査結果の3つのカテゴリーについて検証している。

図1
図1 糖尿病自己管理用途モバイルヘルス研究の分析フレームワーク(クリックで拡大) 出典:AHRQ「Mobile Health Technology for Diabetes」(2017年7月12日)

 調査手法としては、意思決定者やステークホルダーへのインタビューの他、Ovid/Medlineおよびコクランデータベースの検索による系統的レビュー・技術評価を実施している。

 2018年5月8日に公表された報告書では、6つの1型糖尿病向けアプリケーション(「Glucose Buddy」「Diabetes Manager」「Dbees」「Diabetes Diary」「Diabetes Interactive Diary」「Diabeo Telesage」)、5つの2型糖尿病向けアプリケーション(「BlueStar Diabetes」「mDiab」「NexJ Connected Wellness Platform-Health Coach + [NexJ]」「Gather Health」「WellTang」)について、表1のような形で要約している。

表1
表1 モバイルアプリケーションの機能、ユーザビリティ、重要なアウトカム(例)(クリックで拡大) 出典:AHRQ「Mobile Health Applications for Self-Management of Diabetes」(2018年5月8日)

エビデンスの量・質や個人データ保護に課題を抱えるモバイルヘルス

 RHRQは、調査結果のポイントとして、以下のような点を挙げている。

  • 数百の糖尿病自己管理アプリケーションが商用利用可能になっているが、医療アウトカム研究が特定できたのは、11のアプリケーションのみであった
  • 11のアプリケーションのうち、糖尿病モニタリングで重要な臨床検査であるHbA1cについて、臨床的に重要な改善に関わる研究は5つのみであり、生活の質(QoL)、血圧、体重またはボディマス指数(BMI)の改善に触れた研究はゼロであった
  • 研究手法の課題としては、短期間(2〜12カ月)である点、ランダム化、割付、マスキング、脱落分析の報告に一貫性がない点、結果の解釈を阻害する共介入がしばしば使われていた点があり、高品質の研究と考えられるケースはなかった

 糖尿病患者向け自己管理モバイルヘルスアプリケーションの数は増えているが、エビデンスについてみると、臨床評価指標の設定、分析手法の標準化などに課題があり、量、質ともに不十分であるとしている。

 また、今回の報告書では、医療アウトカム研究が特定された前述の11のアプリケーションについて、セキュリティ/プライバシーポリシーの対応状況を整理している。ポリシーの有無を確認できないアプリケーションがあった他、同じアプリケーションでも、プラットフォーム(例.iOSとAndroid)によってプライバシーポリシーの内容が異なっていたり、サードパーティーの開発者のデータ利用に関する記述がまちまちで一貫性がなかったりするなど、個人データ保護上の課題が山積している。

 本連載第28回で取り上げたように、モバイルヘルス機器・アプリケーションから生成されるデータは、リアルワールドデータ(RWD)/リアルワールドエビデンス(RWE)のソースとしても期待されており、エビデンスの継続的な構築/蓄積やセキュリティ/プライバシー対策の整備は欠かせない。

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