「女性ってかわいいものが好きでしょ」、おじさんたちの固定概念を覆す:車両デザイン
ダイハツ工業は2018年6月25日、新型軽乗用車「ミラ トコット」を発売すると発表した。クルマを初めて購入する、もしくは欲しいクルマがないという若い女性に向けて、企画の初期から同社の女性社員が関わって開発した。月間販売目標台数は3000台で、このうち8割を女性が占めると見込む。
ダイハツ工業は2018年6月25日、東京都内で会見を開き、新型軽乗用車「ミラ トコット」を同日に発売すると発表した。クルマを初めて購入する、もしくは欲しいクルマがないという若い女性に向けて、企画の初期から同社の女性社員が関わって開発した。月間販売目標台数は3000台で、このうち8割を女性が占めると見込む。
税込みメーカー希望小売価格は107万円からで、ディーラーオプションのカスタマイズも安価に選択できるようにした。運転に不安を感じるエントリーユーザー向けに、衝突回避支援システム「スマートアシストIII」を採用するとともに、軽自動車として初めてSRSサイドエアバッグとSRSカーテンシールドエアバッグを全車標準装備にした。
「今まで売れていたじゃないか」vs「欲しいクルマがない」
ダイハツ工業はこれまでにも、「ムーヴ キャンバス」「ミラ ココア」といった女性向けのモデルを開発してきたが、女性客、特に初めてクルマを購入する若年層から「ちょうどいい、欲しいクルマがない」という声があった。こうしたニーズに応えるため、ターゲット層に近い女性社員たちでプロジェクトチームを結成しコンセプト立案など企画初期から携わった。
従来の女性向け製品の開発では、企画がある程度固まってから、詳細を作り込むために女性の意見を取り入れていた。そのため、「そうじゃないのに、もっとこうしてほしいのに……と思っても、その段階では意見を反映するのが難しいこともあった」(プロジェクトメンバーの女性社員)のだという。ミラ トコットの企画では、新車開発を主導するチーフエンジニアやマネジャーが持つ「女性は、かわいいものが好きだ」「かわいらしさを強調するために”盛る”」という固定概念を覆すことも課題となった。
「私たちは決してかわいいものは嫌いではないけれど、かわいらしさは2〜3割で十分だと感じている。甘すぎるよりはシンプルなものが好まれ、モテるとか女子らしいということは主流ではなくなった。ファッションやライフスタイルなどの市場調査からもそういう傾向が明らかになったが、言葉だけで説明しても40〜50代の社内の男性は納得しなかった。『今までそれでクルマが売れていたじゃないか』という姿勢だった」とプロジェクトメンバーの女性社員は企画初期を振り返った。
「男性社員たちから理解を得るため、女性ファッション誌を片っ端から買いそろえて、今の女性たちの嗜好の例として紹介した。盛るかわいさを打ち出している雑誌はわずかで、大半の雑誌が肩肘張らない自然体であること(エフォートレス)を前面に出している。これだけでは”今の流行”といわれてしまうので、現在までの変遷や今後の動向の予測も示した。説明に3カ月ほどかかって、ようやくクルマの形が盛るかわいさから離れていった」(プロジェクトメンバーの女性社員)
「エフォートレス」を軸にシンプルで愛着がわくデザインとしながら、死角が少なく車両感覚がつかみやすいパッケージとした。女性比率8割を見込むモデルではあるが、「男性が助手席に乗ったり、代わりに運転したりした時にも気にならないようなデザインを目指した」(プロジェクトメンバーの女性社員)。角をとり、適度に丸みを持たせたスクエアボディーで、見切りのよさも兼ねた水平基調となっている。
カスタマイズをより安価に
ユーザーが「標準仕様のシンプルさを生かしつつ個性を発揮」(ダイハツ工業の説明員)するため、内外装をカスタマイズするアクセサリーのオプションパッケージを3種類用意。生産ラインで部品を装着するメーカーオプションと、販売店で部品を取り付けるディーラーオプションの組み合わせを工夫し、安価にカスタマイズを楽しめるようにした。
これまで、ディーラーオプションのホイールキャップやドアアウターハンドル、ドアミラーなどのアクセサリーは、生産ラインで取り付けられた標準仕様の部品を販売店で取り外して、指定されたアクセサリーに付け替えていた。取り外しの工賃が発生するだけでなく、取り外された標準仕様の部品はユーザーが不要だといえば廃棄処分になっていた。
ミラ トコットでは交換が発生する部品は生産ラインで装着するようにすることで、従来は10万円以上かかっていたアクセサリーのパッケージを9万円台に抑えた。ロアスカートやガーニッシュ、ステッカーなど生産ラインでは対応できないアクセサリーは、従来通り販売店で取り付ける。生産ラインでは、組み付ける部品の種類が増えるが負担にはなっておらず、販売店は工数削減が図れる。
「細かいカスタマイズはメーカーオプションにするのが難しいが、ライン装着のアクセサリーのみのパッケージでは少しさみしくなる。ディーラーオプションとメーカーオプションがうまく分担することで、初めてクルマを買う人にもカスタマイズを楽しんでもらいたい」(ダイハツ工業の説明員)
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