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カーデザイン基礎の基礎クルマから見るデザインの真価(10)(1/4 ページ)

外を見ると、さまざまなバリエーションのクルマが走っている。単純化すればクルマの構造自体は共通点が多いが、デザインの要素やサイズの比率によって個性が生まれ、ブランドイメージにも結び付く。「人がどう乗るか」もデザインに深く関わる。こうした「カーデザイン」の基礎を分かりやすく解説していく。

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 今回と次回分でMONOist編集部よりいただいたお題は「新年度だし新人さんエンジニアの方々も想像しつつ“カーデザインの基礎”的なものを」というもの。

 何となく分かったようでありながらモヤッとしたお題なので、さてどういう視点がいいものかと迷ったのが正直なところだ。「ジドーシャの歴史」からデザインを語ろうとすると時間と文字数が相当掛かりそうだし、特定のモデルを題材にデザインを解説するのであれば、広報資料を掲載すれば済んでしまう面も多い。かといって、個人的に好きなデザインのクルマの話をするのは、飲み屋でのツマミのようなものになってしまう。

 クルマの話が面白くも難しいのは、道具としての面と、人の感情や気分に影響する面を持つモノであるからだ。

 本稿の組み立てには悩んだが、MONOistのエンジニア寄りな読者の方々に興味を持ってクルマを観察してもらうために、今回はクルマの種類をはじめカーデザインに関わることがらの基礎の基礎を紹介する内容とした。そして次回はデザイン開発の流れやデザイナーの役割を紹介する構成にしてみようかと思う。

さまざまなクルマがある理由

 クルマには実に多くの種類がある。さまざまな特徴的なカタチや色をしており、路上には多くのバリエーションのクルマが走っている。加えて現在は、長らくの間原動力の主役であった内燃機関に加えて、ハイブリッド車だったり電気自動車だったり、燃料電池車だったりと次世代のクルマもジワリと増えてきて、バリエーションという点では少し前の時代より増えているともいえる。

街中ミライ クルマの種類は多い(左)。トヨタ自動車の燃料電池車「ミライ」のようにひときわ目立つクルマもある(右) (クリックして拡大)

 さまざまなバリエーションのクルマは、素材や製造技術の進化と、人々のライフスタイルや嗜好の変化、あるいは地球環境や安全性の向上といった社会的な課題が、歴史の中で絡み合いながら出来上がってきたものだ。

 もっと単純化させていくと、移動することに対する人間の関心や欲求がクルマのバリエーションにつながっているという見方もできる。人間は移動することで、自分ではない人や環境から刺激を受ける。その手段として、歩いたり泳いだりと自分の身体を使うだけでなく、自転車や鉄道、クルマ、飛行機、そして宇宙に飛び出すロケットに至るまでさまざまな乗り物を作ってきた。身体能力を拡張するという誘惑や魅力も乗り物づくりの1つの動機だろう。

 さまざまな移動のための乗り物の中で、速く遠くまで快適に移動できる道具としては、クルマはポピュラーなものである。加えて「身体能力の拡張装置」としてはパワフルであり、個人が所有出来る乗り物でもある。こうした点も、自動車が発明されてから今日までにさまざまなバリエーションが拡がった要因と考えられる。

どのクルマにも共通していること

 多くのバリエーションが世の中に存在するクルマであるが、全く違う成り立ちというわけではない。単純化すると、どのクルマも大して変わらないのだ。

 例えばパッセンジャーカー。4つのタイヤで地面に立ち、動力源を使って前か後ろの2輪、もしくは4輪を駆動して走る。乗員数は2人乗りもあれば8人乗りなどもあるけれど、運転席は一番前に設置する。操縦に使うのは、円形のステアリングホイールと右足で踏むアクセルとブレーキ、ギアボックスの種類によっては左足で操作するクラッチがある。これらはどのクルマにも共通している。

 もう少し細かく見ていくと、4つのタイヤがフェンダーで覆われ、前後にはバンパーや灯火器を備え、乗員の周囲は雨風をしのげる屋根やその屋根を支えるピラーやガラスで覆われているというところも同じだ。

 クルマを構成する要素パーツは同じであるが、多くのバリエーションが存在して違いがあると感じられるのは、人間の乗せ方の違いやこれらの要素パーツ間の関係性、サイズの比率などの微妙なさじ加減が、シルエットやプロポーションなどの違いにつながっているためだ。

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