見える、見えるぞ! 私にも実寸大の3Dデータが! みんなで体験する製造業VR:製造業向けVR/AR/MRセミナー レポート(3/3 ページ)
MONOist主催セミナー「製造業向けVR/AR/MRセミナー〜設計・開発が変わる! モノづくりの新たな道」では、MONOistの執筆者であるプロノハーツの製造業VRエヴァンジェリスト 早稲田治慶氏がVR/AR/MRの基礎知識と製造業の活用について解説した。事例講演では本田技研技術研究所 四輪R&Dセンター 鈴鹿分室開発推進BL主任研究員 西川活氏が登壇し、生産現場でのVR導入について、データ構築、大画面型と没入型の使い分けのノウハウなどを紹介した。
産業向けVRが採用される大きな要因はIoTだ――PTC 西氏
PTCの西氏は同社が現在力を注いでいるインダストリアル向けARについて話した。VRが産業用に取り入れられるようになった大きな要因はIoTであり、IoTにより大量に生み出されるデータの分析を、ARにより視覚によりもっと直感的に分かるようにするために用いられ始めたという。
また、ARにより可能になることについては「もっと見える化」(現実の世界にリアルタイム情報や仮想的な情報を重ね合わせることで、ユーザーの視界を拡張する)「指導・案内」(デジタルの指導マニュアルやリアルタイムのガイドにより、どのように作業するのかを作業者に指示できる)「遠隔操作」(ARインタフェースによるデジタル画像の操作または実際の製品インタフェースの拡張を可能にする)などを挙げた。一方で、開発能力のあるエンジニアリングの雇用費用が高い、説得力のあるARコンテンツの作成は難しく時間がかかる、専用アプリが増えすぎて管理が煩雑、IoTやビジネスシステムのデータをARで利用する仕組みが複雑、など現時点での弱点も指摘した。
続いて同社の「Thing Worx Studio」の紹介を行った。同ソリューションを使うことで、既存の3Dコンテンツを活用してIoTとエンタープライズシステムのデータを統合することが、通常のARの実装にかかる時間の何分の1かで、コードを書くことなく簡単に可能になる。また、汎用のビュワーソフトを無料で各プラットフォームの公式アプリストアからダウンロードすることができるという。この他、スマートフォン・タブレット向けAR技術を搭載したアプリ開発者向けプラットフォーム「Vuforia SDK」についても触れた。
意思疎通を増やして手戻りをなくす――ダッソー 長谷川氏
ダッソーの長谷川氏は同社の「3DEXPERIENCE CATIA R2018x」について紹介した。同氏は自社について、「戦闘機などの設計からスタートしており、そこから発生したCATIAというCADソフトを中心に、そこから広がるソフトウェアの組み合わせで何ができるかということを追求している」と説明する。今回紹介した製品は、統合されたプロダクトデザインワークフロー、デザイナーが親しみやすい3D機能、体験を重視した思考、ツールとしてのVR活用などの特徴がある。
プロダクトデザインのワークフローには大きく分けて構想展開、部門内確認、モディファイ(修正)、提案内容の作成、デザインレビュー・販売会議などを経て確実な決定を促し、詳細設計・評価・生産準備へとつながる。この流れの中で同製品は、構想展開の時にはデジタルスケッチの機能の向上や、部門内確認の時には、高度なビジュアル表現が可能な点、修正の部分ではモデリング機能の向上、提案内容の作成ではプレゼン機能の拡充が図れるという。これらに同社のさまざまなソリューションを加えることにより、クリエイティブと密度を増やすことで品質をアップさせる。また、方向性決定のための事前調整については、意思疎通を増やすことで、手戻りをなくすことにより加速させるとしている。
体験してもらえばその良さを認識してもらえる――SCSK 岸元氏
SCSKの岸元氏は、これからVRの導入を検討する人たちに活用や方法について紹介した。SCSKはシステム開発、ITインフラ事業、ITマネジメント事業などを展開している。セッションではVRの主流になっているCAVEの説明から、VRの普及の状況などを紹介した。VR関連製品の普及は著しく、2016年の世界のAR/VR機器の出荷台数は1010万台(このうち日本は12万台)で、5年後には9940万台に拡大することが見込まれているという。「VRの技術は進化しているので、体験してもらえばその良さを認識してもらえることになる」とした。
この他、VRはモノづくりでの現場での活用が進んでおり、スケッチやデザインモデリング、設計、メンテナンスの検討、解析、デジタルファクトリー、品質チェック、マーケティング・セールス、メンテナンストレーニングまでその利用シーンは広がっているという。また、VRを見るための4つの方法(専用ソフト、対応ソフト、Gameエンジン、フッキング)やVRの可能性などについて説明した。
VR空間で発生する心的現象もうまく使おう――デル 黒田氏、中島氏
デルのセッションでは、まず黒田氏がVR学会(日本バーチャルリアリティ学会)における心理学の研究について述べた。同学会のVR心理学研究委員会では、人間の知覚および、そこから発生する心理現象のメカニズムの解明で、VR技術を積極的に利用した研究や、VR空間において発生する特有の心的現象の研究などを実施している。その中の1つ、ベクション(視覚誘導性自己運動感覚)を取り上げた。この感覚の1つには、停車中の列車から、動き出した別の列車を見ると、あたかも自分の乗っている列車が動いているように感じることがある(トレイン・イリュージョン)などがある。この感覚はヘッドマウントディスプレイなどを使いVRを体験している時にもあり、例えば映像の中での人や物体との距離感により、倦怠感、不快感、恐怖感、爽快感などの症状が生じる。こうした距離感をうまく使うと、情報の提供だけでなく、人の心に強い印象を与えるという。
続いて、中島氏が同社のVR環境の実現に向けた考え方を紹介した。VR事業については、ワークステーション、グラフィックス、ヘッドセットディスプレイなどのハードウェアの柱、ソフトフェア・システムインテグレーションの柱、そしてコンテンツの柱の3つの柱があり、「これが揃わないとVRシステムとして提案できないと基本的に考えている」(中島氏)という。同社は、このうちハードウェアについてはモバイル型からタワー型、ラック型など多様な製品をラインアップしており、ソフトウェア、コンテンツについては、コンテンツプロバイター、ソフトウェアハウス、システムインテグレーターと連携してトータルソリューションを提供している。
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