「標準時間」とは何か?(後編):よくわかる「標準時間」のはなし(5)(2/3 ページ)
日々の作業管理を行う際の重要なよりどころとなる「標準時間(ST;Standard Time)」を解説する本連載。標準時間を設定する際の特に重要な2つのポイントとなるのが「標準の早さ」と「余裕時間」だ。第4回の「標準の早さ」に続き、第5回は「余裕時間」について説明する。
2.余裕時間の分類
次に、「余裕時間」の分類別に、それぞれの内容について以下に説明します。
2.1 作業余裕
(1)定義
作業余裕とは、作業に直接関係した作業要素で、作業の特殊性から不規則に発生する遅れの時間のことで、ある期間に対して平均値として与えることができるものをいいます。作業余裕は、作業サイクルとの関連性の程度によってその扱いが異なります。作業のサイクルと無関係に発生する場合は、1日の仕事時間に対する割合(%)で表し、数サイクルに1回といった、ある程度規則的に発生する場合は、その時間値を回数で除して1回当たりの時間値を算出して正味時間に加えて表すようにします。
(2)作業余裕として取り扱う項目と内容
- (a)工具・器具の修理や交換:工具・器具の修理・交換、保護具の修理・交換、機械設備の調整、現業用消耗品の補充請求など
- (b)切削中における刃具の摩耗などの中間研磨
- (c)工具・器具の作業途中での中間扱いで、共用工具・器具類の貸借、取り出し、片付け、所在を探すなど
- (d)作業中に行う、切り粉や作業くずの掃除などの中間処理
- (e)副作業:出現の予測ができ、作業ロット毎に時間を配分することができない項目で、ある一定の作業期間で発生する塗料の調合、線材やフープ材のドラム替えなど
- (f)打ち合わせ:作業に直接的に関する打ち合せで、作業進行上の指示、作業の割り当て、技術的な指示や打ち合わせなど
- (g)材料や部品に関する員数確認、その所在を探すなどの中間的な処理作業
2.2 職場余裕
(1)定義
職場余裕とは、作業に直接関係はしないが、職場の管理や工場生活が起因して発生するもので、工場の管理方式によって左右される遅れの時間をいいます。ある期間に対して平均値として与えることができる項目をいいます。
職場余裕は、手待ちや打ち合わせといった内容を正味時間の何%という表し方は実際には難しく、むしろ1日の仕事時間の中の何%を占めるかということで表します。
(2)職場余裕として取り扱う項目と内容
- (a)待ち:クレーン待ち、作業補助者の応援待ち、指示待ち、油圧機の上昇・下降待ち、加熱溶融待ち、停電、空・油圧の上昇・低下待ち、作業開始時の物の流れ待ちなど
- (b)日々の準備や後始末:主として日に1回、始業・終業時に行う作業の準備、工具・器具の取り出し・戻し、片付け後の機械の手入れ・調整、保護具の着脱、床掃除など
- (c)帳票類などへの記録:作業進行上の諸記録、完成高のチェック、日程表のチェック、作業日報の記帳など
- (d)指示、伝達、連絡:残業の指示、順守事項や諸規則などの伝達、部品の督促、業務に関するその他の職場に関する連絡など
- (e)材料や部品の整理:職場の整備として行う材料や部品の整理で、部品・製品、部品箱の山の積み替え、開梱・梱包時の屑を捨てるなど
- (f) 職場間の移動:分散した職場や機械設備を巡回しながら作業を行うとか、部品加工ラインから組立ラインに移動するなどのために工具・器具を持って回る時間
- (g) 職場内の業務以外の種々雑多な仕事:職場全体のために、当番制などの方法で行う雑役的仕事の時間で、冷房・暖房装置の始動・停止、燃料などの補給、窓の開閉、照明の点灯・消灯など
2.3 個人余裕(人的余裕)
(1)定義
個人余裕とは、作業者の生理的、保健的理由によって生ずる遅れ時間や、個人の権益を保護する上で必要とする遅れの時間です。
個人余裕の取扱いは、正味時間の何%として与えるのではなく、1日の仕事時間の百分率(%)として与えられます。
(2)個人余裕として取り扱う項目と内容
- (a)用便、鼻をかむなどの生理的理由によって発生する遅れ時間
- (b)採暖、採涼、水飲みなどの保健的理由によって発生する遅れ時間
- (c)権益保護:例えば、給料の支給金額や残業時間の記載に疑義が生じたために問い合わせるなどの個人の権益に関すること
2.4 疲労余裕
(1)定義
疲労余裕とは、工場生活において、工場で定められた作業ペースで作業を遂行するために必要な疲労回復などの遅れ時間です。
疲労余裕は、ほとんど特定の要素作業(作業種別)に対して付加していくのが一般的な取扱いですので、正味時間に対する割合で与えられます。
一方で、正常な作業ペースと、観測した作業ペースを比較判断し、観測時間値を正常ペースの時間値に補正する“レーティング(Rating)”の時に困難度を考慮しているので疲労余裕は不要であるという考え方もあります。
(2)疲労余裕として取り扱う項目と内容
一般的には、体操、休息、喫煙などによる遅れ時間で、生産形態、作業密度(精神的負荷)、作業姿勢、重量物の取扱い(肉体的負荷)の程度などによって与えられます。
疲労余裕は、作業者のエネルギー消費量を基礎代謝量での倍率で示す“エネルギー代謝量(RMR:Relative Metabolic Rate)”を使用して検討する方法も用いられています。
2.5 その他の余裕
以上の4つの余裕時間の他に、作業の習熟過程にある作業者に対する余裕であるとか、機械設備を複数台持ちで作業している時、作業者が機械の材料補給や加工品の脱着、調整などの作業を行っている間に、他の機械が停止、あるいは空転状態になる機械干渉、組み立て工程や加工工程などの各作業者あるいは機械設備間の負荷バランス効率(ライン編成効率)に対する余裕、季節の移り変わりによる環境条件の変化に対する余裕などが問題となる場合もあります。
しかし、今回は一般的な説明の範囲とさせて頂きました。明確なことは、いずれの場合でも、それぞれの事柄について改善していく努力が重要であることはいうまでもありません。
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