検索
連載

IoT時代におけるシステムズエンジニアリングの重要性:フラウンホーファー研究機構 IESE×SEC所長松本隆明(後編)IPA/SEC所長対談(2/4 ページ)

情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。今回は、ドイツ フラウンホーファー研究機構 実験的ソフトウェア工学研究所(IESE)のイェンス・ハイドリッヒ博士とマーティン・ベッカー博士に、システムズエンジニアリングの有用性やインダストリ4.0への取り組みなどについて話を聞いた。

Share
Tweet
LINE
Hatena

システムズエンジニアリングにおける人の問題をどう捉えるのか

松本 システムズエンジニアリングが、それだけ幅広くなってくると、単にハードウェアとソフトウェアが対象になるだけではなく、人間、ヒューマン・ファクタのところも大きな要素になってくると思いますが、いかがでしょうか。

ハイドリッヒ 人がシステムズエンジニアリングの考え方の中心にくると思います。と言うのも、システムが提供するサービスを使うのは、最終的には人であり、そのシステムによってサポートされるのは人だからです。

松本 しかし、人間というのはモデル化しづらいというか、ほとんどできないのではないでしょうか。人間の要素をどうモデル化するかというのは、すごく難しいと思います。

ハイドリッヒ そこが大きな課題です。プライバシーにもかかわってきます。システムが大量のデータを収集する中で、人についてのデータも多く収集する。ドイツではとくに注目されているトピックとなっており、集められたデータが誰に属するのか、誰が所有するデータになるのか、また、そのデータに対して何ができるのか、どこまでできるのか、ということが議論になっています。人のモデル化をするときには、その人が何をやっているのか、どういう状況にあって、何を行っているのか、ということを分析することが必要になります。それは、やはりプライバシーと大きくかかわるわけです。

松本 プライバシーの問題について、具体的にこう考えていこうという方向性はあるのでしょうか。

ハイドリッヒ 考え方としてあるのは、一人の人が、自分に関するデータに対して、より良いコントロールができるようにしていこう、というものです。提供されたデータに対して、何ができて何が許可されないのか、というのがきちんとコントロールできる環境にしていこうということですね。そのために、二つのソリューション・アプローチが考えられています。一つ目が技術的なソリューションで、そのデータに対して何ができるのか、何が許可されないのか、というポリシーを作り、そのポリシーのモデル化をしていく、ということです。そのために、IESEではフレームワークを作るというプロジェクトになっています。

 二つ目のアプローチは、技術的なものではありませんが、より人々の意識を上げていこうというものです。どんなデータを提供しているのか、そして、そのデータに対して何ができるのかということを、より慎重に考えるような意識向上です。

ベッカー 業界をまたがってトレンドとして出てきているのは、これまでのように、データをプッシュ型でクラウドに送り込んで、中央一元化して処理をするのではなく、ローカルなマシーン上に持たせ、処理をしていくというものです。つまり、組込みシステムのほうにその機能を渡していく、という考え方です。それをすることによって、機密性があり価値のあるデータは、全員が共有するのではなく、ローカルなマシーンに持たせていくという考え方です。

ハイドリッヒ それが、ビッグデータの原則にも合うと思います。機能をデータのほうに動かしていくことで、データを機能のほうに動かすのではない、という考え方です。

ベッカー それが、新たな市場機会を開いていくことにもつながっていくでしょう。例えば、スマートな組込みシステムを構築できる企業というのが、そのスマートな組込みシステムの中で、ユーザのニーズを理解し、また、振る舞いや挙動を学習することができる、ということになれば、そのシステムはより市場で成功するチャンスが高いということになります。インテリジェンスはクラウドに任せて、組込みシステムのほうには何も持っていない、というものと比べると、大きなチャンスになると思います。

松本 なるほど。例えば、これから色々なウエアラブル・デバイスができたときに、人間の身体的な情報、脈拍や血圧なども取れるようになりますが、いずれは自分にとって、これはクラウドに上げてヘルスケアで管理して貰ったほうが良いというデータと、これは個人情報だから自分のデバイスに残しておこう、というものと、ユーザがそれを管理できるような仕組みが必要になるかもしれないですね。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る