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完全自動運転車にかかる「コスト」は誰が払うのか、「法整備」も高いハードルにIHS Future Mobility Insight(2)(3/3 ページ)

現在、自動車業界は、自動運転技術、コネクテッドカー、モビリティサービスなどの次世代技術による大きな変革の真っただ中にある。本連載では、これら次世代技術に焦点を当てながら、自動車が未来のモビリティへ移り変わる方向性を提示していく。第2回は、自動運転車にかかる「コスト」と「法整備」の観点から、その未来像を考察する。

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法整備や制度設計が進まない日本

 では、日本はどうだろうか。日本は米国とともに「ジュネーブ道路交通条約」に加盟している。同条約では「ドライバーは車両の操縦を行わなければならない」とされているため、運転中はステアリングから手を離してはいけない。つまり、オートレーンチェンジ機能がある自動車でも、運転手はステアリングを握っていなければいけないのだ(ただし、時速10Km以下の走行はこのかぎりではない。つまり、自動駐車支援機能が稼働している時は手を離してもよい)。

 残念ながら日本は、ドイツや米国と比較し、法整備や制度設計がまったく進んでいないのが現状だ。2016年、警察庁は自動運転のガイドラインを公表し、自動運転の実験ができるようにした。しかし、同ガイドラインは限定エリアのみ適用されるもので、公道を利用しての実証実験ができるものではない。また、閣議決定でも「環境整備は必要ですよね」という“認識合わせ”レベルにとどまっている。「どのレベルの自動車が」「どのような環境で走行することを許可/規制するのか」といった具体的な議論は、その展望が見えていない。

 自動運転車の普及が進まない最大の要因は、こうした道路交通関連の法整備が整っていないことだろう。自動車メーカーは「自動運転の技術力はあるが、制度設計がされていない。だから自動運転機能搭載の新車を販売するにはアクセルが踏み込めない」という状況なのだ。

 ちなみに、インド政府は自動運転車の運行を禁止している。その理由は「自動運転車は労働市場に対するインパクトが強すぎる」からであるという。IT先進国といわれるインドでも、そのコストを考えれば二の足を踏む。自動運転車の運用に関わるインフラ投資やその運用コストを考えれば、タクシーやリキシャ(自転車タクシー)を利用したほうが、よっぽど効率的と判断したからではないだろうか。

 こうした課題を解決するためには、国際法や現行の道路交通法に縛られない制度設計が必要だ。例えば、自動運転車両専用エリアなどの特区を設けたり、自動化された車両が走行できる場所を指定したりといったことである。また、万が一、事故が発生した場合の責任区分などの明確化も必要だ。

 規制緩和や法規・規格は、運転の自動化によって道路を使用する、全ての人の安全を阻害してはならない。そのためには、自動運転車が安全に走れる法整備が必要であり、「どのような自動車が安全性能を確保した車なのか」を含めて議論/制度化する必要がある。



 自動運転は自動車の価値を向上させるものだ。完全自動運転車に到達しなくても、事故死を減らすという意味では社会の役に立つ。しかし、ここまで説明した通り、自動運転車を運用するためには、見えないコストがたくさん発生する。こうしたコストは、技術革新で解決できるものではない。

 極論を言ってしまえば、完全自動運転車で実現したいことは、人を利用すれば今でも実現できる。それに取って代わるだけの価値とメリットを利用者に提供できるのか。その真価が問われるのはこれからだといえるだろう。

プロフィール

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松原 正憲(まつばら まさのり) IHS Markit シニア オートモーティブ テクノロジー アナリスト

1964年生まれ。前職は外資系半導体メーカー、EMSなどに勤務。IHS Markitでは、テクノロジー部門で主に車載エレクトロニクス関連のサービスサポート経て、2016年から自動運転車関連技術のアナリストに従事する。さまざまな業務で蓄積した半導体からシステムレベルの幅広いノウハウ、知識から分析、課題解決をサポート。


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