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IoT時代におけるシステムズエンジニアリングの重要性:フラウンホーファー研究機構 IESE×SEC所長松本隆明(前編)IPA/SEC所長対談(2/3 ページ)

情報処理推進機構のソフトウェア高信頼化センター(IPA/SEC)所長を務める松本隆明氏が、ソフトウェア分野のキーパーソンと対談する「SEC journal」の「所長対談」。今回は、ドイツ フラウンホーファー研究機構 実験的ソフトウェア工学研究所(IESE)のイェンス・ハイドリッヒ博士とマーティン・ベッカー博士に、システムズエンジニアリングの有用性やインダストリ4.0への取り組みなどについて話を聞いた。

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インダストリ4.0に必要な標準を提供していく

松本 隆明(まつもと たかあき)
松本 隆明(まつもと たかあき)1978年東京工業大学大学院修士課程修了。同年日本電信電話公社(現NTT)に入社、オペレーティング・システムの研究開発、大規模公共システムへの導入SE、キャリア共通調達仕様の開発・標準化、情報セキュリティ技術の研究開発に従事。2002年に株式会社NTTデータに移り、2003年より技術開発本部本部長。2007年NTTデータ先端技術株式会社常務取締役。2012年7月より独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部ソフトウェア高信頼化センター(SEC)所長。博士(工学)。

松本 先程のシステム・インテグレーションの話ですが、確かに今はIoTの時代になって様々なサービスがつながり、システムが融合化する時代になっています。そのときに、今まで比較的はっきりしていたハードウェアとソフトウェアの境界がだんだんあいまいになってきたような気がしています。

ハイドリッヒ 同感です。

松本 最近の傾向として、ソフトウェアを生業としていた企業がハードウェアに進出してくる。極端に言えば、グーグルが自動車を作る、というような時代になっているのではないかと思います。

ハイドリッヒ その流れは、ハードウェアからソフトウェア、ソフトウェアからハードウェアへと、両方向で起きていると思います。例えば、元々はハードウェアを生業にしていた企業が、IoTやデジタル化の機会を探るためにソフトウェアのほうに入ってくる、というようにです。しかし、IT企業が、既に確立されている市場に入っていこうとするほうがよりリスクが高いとも言えるでしょう。

ベッカー 最近のトレンドとしては、やはり様々なアプリケーションの領域において製品の革新化を図っていく際に、そのイノベーションがソフトウェアで行われていくという状況が増えてきていると思います。従って、これまでの典型的なハードウェアの企業も、そういった製品イノベーションをどう提供していくのか、それをソフトウェアでどう行っていくのか、ということに関しての投資をしていかなければならなくなっていますし、またソフトウェアの企業も、ハードウェアの能力を身に付けていくことが必要になっています。

松本 システム・インテグレーション以外に、今IESEで取り組まれているものはありますか。

ハイドリッヒ 色々あります。一つがBaSys4.0(Basic System Industry 4.0)というプロジェクトです。これはいわゆるインダストリ4.0の基本プラットホームになる部分のアーキテクチャにかかわるものです。また、プロオプトというプロジェクトがあります。これは、スマートプロダクション、つまりスマート化された生産の中で、ビッグデータをどう活用していくのか、という取り組みです。更にIUNOというプロジェクトがあります。これはインダストリ4.0向けのITセキュリティに関するものです。

 インダストリ4.0に関しては様々なアプリケーション領域があり、そこに向けて様々な取り組みを行っています。

松本 インダストリ4.0に関しては、実際にプラットホームができて、色々なプロバイダがその上で製品を開発できるような状況になってきたのでしょうか。

ハイドリッヒ そうであれば非常に良いと思いますが、プラットホームのプロジェクトは、今年半ばに始まったばかりです。プロジェクト自体の期間は3年間です。

松本 共通プラットホームということは、インダストリ4.0に準拠した製品を作る人は、共通のAPIのようなものを介してプラットホームと通信し合う、という形になるのですか。

ハイドリッヒ 大体はそういうことですが、BaSys4.0というプロジェクトでは、インダストリ4.0に必要なスペック、標準を提供していくというような形になります。例えば、物理的な機械を抽象化しデジタルに表現していくということが必要になります。それを、デジタル・ツインとかデジタル・シェルと呼んでいます。

ベッカー その最初のステップとして、インダストリ4.0のプラットホームに対しての参照アーキテクチャを開発する。その参照アーキテクチャが、RAMI4.0(The Reference Architectural Model Industrie 4.0)と呼ばれています。BaSysのプロジェクトでは、この参照アーキテクチャに基づいて、インダストリ4.0向けの具体的なOSを開発し、そのOSを様々なアプリケーションの領域で共有して使っていく、という形になります。

松本 そのOS自身は、インダストリ4.0に準拠するプロダクトに埋め込まれる形になるのですか。

ベッカー おっしゃる通りです。このOSは、インダストリ4.0準拠の製品の中に組み込まれる、と言いますか、このOS上に製品が構築される形になります。また、インダストリ4.0に準拠したアプリケーションや製品は、これまでの製品にない、新たなプロパティ、特徴が必要だということも認識されています。

 例えばインダストリ4.0の製品やアプリケーションに関しては、いわゆるコンテキスト、周辺の環境というものを認識する能力が必要だ、と言われています。また、自身で系統立てる、整理していく、適応していくという能力も必要だと考えられていますし、きちんとセキュリティと安全を確保したものにしていくことも必要だと言われています。こうした、インダストリ4.0に特有なものとして必要とされる特徴、それをきちんと組み込んでいくということです。

松本 その場合、既存の製品を大幅に作り変えなければいけないという意味で、かなりコストがかかるような気がしますが。

ハイドリッヒ 今のものをすべて捨てるという考え方ではありません。既存のマシーンに関しても、スマート化を図っていきます。そして、既存のレガシーと言われるようなハードウェアも、システムの中に統合していく方法を見つけていかなければならないと考えています。それができなければ、インダストリ4.0のビジョンは実現できないでしょう。

ベッカー 既にインダストリ4.0向けのプラットホームやOSも、一般の企業から出ているものがあります。例えばシーメンスは、インダストリ4.0向けの製品をもう既に出しています。それらは他の企業が使うことも可能になっています。考え方は、まだインダストリ4.0に参入していない企業が参入しやすくするというもので、例えば、中小企業もインダストリ4.0に入っていきやすくなるということです。彼らの製品を適用して、インダストリ4.0対応にすることができるような技術を提供するということです。

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