量産できる漆のようなバイオプラスチックで精緻な蒔絵の再現に成功、耐摩耗性も向上:材料技術
NECは漆芸家の下出祐太郎氏と共同開発する「漆ブラック調バイオプラスチック」について、耐傷性の大幅な向上と蒔絵の再現印刷に成功したと発表した。
NECは2018年2月6日、京都工芸繊維大学および漆芸家の下出祐太郎氏(下出蒔絵(まきえ)司所三代目、京都産業大学教授)と共同開発する「漆ブラック調バイオプラスチック」に関する記者説明会を開催した。
2016年8月に発表した漆ブラック調バイオプラスチックは、伝統工芸の漆器のような漆黒の美しさを再現した素材であり、射出成形にも利用できる。高い植物成分率の素材をプラスチック製品に採用することによるCO2削減効果を狙い、プラスチック素材としての優れた機能性の実現も目指す(関連記事:漆の美しさを備えたバイオプラスチックを開発、射出成型で量産可能に)。
実用化するにあたり、樹脂表面に細やかな凹凸が現れる、擦れることによる白濁化など外観面の問題解消や、加飾としての蒔絵の再現が課題だった。今回は、耐傷性の大幅な向上と蒔絵の再現印刷に成功したと発表した。
今回は、非食用植物を原料とするセルロース系バイオプラスチックに特定の分子構造を有する添加成分を最適に配合することで、美しい光沢の漆ブラックを表現する光学特性を損なうことなく耐傷性を高めた。今回の添加成分は微小かつ微量なので成形条件などには大きく影響しないとしている。
新開発した素材は、摩擦試験において、ガーゼを用いて約0.5kgf/cm2の強さで100回程度擦った場合も光沢度が高く保持され、装飾性を重視した用途のプラスチックと比較しても優れた耐摩耗性であると評価したという。旧素材は同条件の試験でABSやアクリルよりも少し光沢保持率が高い程度だったが、新素材はポリカーボネートと同等かそれ以上に向上している。
さらに、漆ブラック調バイオプラスチックにスクリーン印刷を施すことで、精緻で立体的な蒔絵を高度に再現する「蒔絵調印刷」に成功したという。
蒔絵とは漆工芸における手法で、日本独自の加飾技法である。漆器の表面に漆で絵や模様などを描き、漆が乾かないうちに金粉や銀粉を蒔いて、漆を硬化させる。今回は、下出氏が製作した蒔絵をデジタル画像処理し、インク組成や印刷条件の最適化により立体的かつ滑らかな厚塗り印刷を実現した。さらに特殊な金属粉を用いることで、金粉による彩色を高品位に再現した。
「『Japan』は蒔絵漆器を示す言葉としても使われている。合成塗料が生まれた後も、漆の黒の深みは世界から垂ぜんの的となっている。日本は“漆の国”であるが、日本人自体が漆のことを知らない。漆の黒がピアノブラックのモデルとされていたことも日本人にあまり知られていない。“漆の国”が発信する、漆ブラック調バイオプラスチックと蒔絵調印刷により、ジャパンオリジナルとして、日本の文化的な地位を高めるべく再発進できたらよい。ぜひとも実現させたい」(下出氏)
今後は、自社製品だけではなく社外の製品への採用を広めるため、樹脂材料メーカーなどとのパートナー体制の構築に取り組む。採用分野としては、先端電子機器、高級家電、事務機器、高級日用品、自動車、高給建材、医療・福祉機器などを想定。高度な環境調和性と装飾性の相乗効果を訴求していく。2020年までには、さまざまな製品で適用されることを目指す。
なお食器での採用について、NEC IoTデバイス研究所 研究部長 辻正芳氏は「今回の技術についていえば、高装飾性をうたったもの。今後、材料メーカーと開発に取り組んでいくが、どういうところに製品を出していくかによって、仕様値が変わってくる。例えば、車の内装であればすっても白くならないこと(耐摩耗性)、食器であれば耐水性など。そういった検討はこれからになる。植物由来の原料であるため、口に入れても問題がない材料であるはずだが、まだ完全に検証できていない」と説明した。
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