IoT時代のキーテクノロジー「自律分散システム」とは何か:製造業IoT(1/2 ページ)
IoTの活用が進展する中、注目を集めているのが「自律分散システム」である。中央で全ての情報を処理するのではなく、エッジ(現場)側で個別に最適化することで柔軟でしなやかさを確保できる点が利点だとされる。鉄道や製鉄所などで多くの自律分散システム構築の実績を持つ日立製作所に自律分散システムの利点と価値について聞いた。
IoT(モノのインターネット)への製造業の取り組みが広がりを見せている。IoTで価値を実現するためには、情報の収集、蓄積、分析、現実へのフィードバックの流れが必要となる。情報を収集して見る「見える化」だけであれば、最終的な現場作業については、人の判断や作業が入る。そのためにクラウド側での情報処理でも問題ないが、現場に制御をフィードバックする場合には、状況によってはリアルタイム性が必要になる。
その場合、現場で機器の運行や制御をつかさどるOT(制御技術)との連携が必須となる。また、即座の対応が必要になる場合には、クラウドなどの通信網を介さずに、現場での情報処理が必要となり、エッジコンピューティングが重要になる。
これらを踏まえて、IoTで現場の制御を実現するには、個々のオペレーションをエッジ側で制御しつつも、全体との連携をとる「自律分散型」のシステム構築が最適だとされている。
自律分散システムとは
自律分散システムとは、生体をイメージした個別に動作しながら全体最適化を実現するシステムのこと。例えば、生体においては細胞が1つのシステムとして機能しつつも、生物としての統合体としての役割も果たす。このサブシステムが自律的に個々に動作しつつも、全体としての協調を実現する仕組みのことを自律分散システムと呼ぶ。
自律分散システムの利点としては、拡張性に優れる点とシステムを止めずに増設や撤去などが行える点などが挙げられる。日立製作所 制御プラットフォーム統括本部 大みか事業所 制御プラットフォーム開発部 部長の西村卓真氏は「現場のOTシステムではIT(情報技術)と異なり、1〜10m秒のリアルタイム性が要求される一方で止められないシステムが多いという特徴がある。加えて、顧客の状況などにより常にシステムが変化する状況に置かれる場合が多く、システムとしての柔軟性を持ちつつ、全体最適化を実現できなければならない。こうした要求に応えるのが自律分散システムだ」と意義について述べている。
もともと、日立製作所が自律分散システムを開発したのは、製鉄所のシステム構築のためだ。製鉄所では、鉄の温度や素材、形状などを全ての要素を最適化できなければ、求める品質の鉄を作ることはできない。
例えば、熱延工程だけをとっても、製鋼工程で生まれたスラブという厚さ250mmの鉄の塊を1200度まで加熱し、鉄板が熱い状況で一気に1〜3mmまで薄くしながら、熱延コイルとして巻き取る。コイル状に巻き取られた帯状の鋼の全長は2000mとなり、装置そのものの全長も数百mにも及ぶ。設備には、鉄板を送り出す装置や、鉄板を薄く延ばす圧延機、材質特性を制御する冷却器など数多くが存在し、これらの機械に膨大な数のセンサーとモーター、バルブなどが搭載されている。これらの情報を基に複数の分散した装置を同期させながら、動作させなければならない。さらに、製鉄の工程は1度動かすと止めることができないものも多い。
西村氏は「以前から各装置単体での制御は行われてきたが、各装置の連携については人手でやってきていた。しかし、求められる製品の高度化やシステムの複雑化が進む中で、全体的なシステムとしての解決が求められるようになった」と背景について語る。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.