クルマが本当に「走るスマートフォン」になる日、カギはからっぽのECU:MONOist 2018年展望(2/3 ページ)
つながるクルマに関連した技術や製品は、これまでにも多くあり、現在も開発が進められている。しかし、それだけでは「走るスマートフォン」にはならない。スマートフォン並みにクルマの自由度を高めるには何が必要か。
自動車業界で「サービス指向アーキテクチャ」を考える時がきた
次のE/Eアーキテクチャの、そのまた次のE/Eアーキテクチャの方針として、VWやドイツの大手サプライヤー、開発ツールベンダー各社が共通して掲げるのは、「サービス指向アーキテクチャ(SOA:Service-Oriented Architecture)」だ。
VWは、ドメイン集約型の次世代E/Eアーキテクチャでは複数のドメインコントローラーを横断するような機能に課題があり、スケーラビリティも不足すると考え、Vector Informatik(べクター)と共にサービス指向アーキテクチャの考えに基づく将来のE/Eアーキテクチャの開発を進めている。
IBMによれば、サービス指向アーキテクチャとは、コンピュータのソフトウェアを「サービス」という単位で実装し、複数のサービスを組み合わせてシステムを作り上げるという概念だ。サービス指向アーキテクチャがブロックを積み重ねて完成品を作るものだとすれば、従来の概念は完成品のために細部まで作り込むことだ。
サービス指向アーキテクチャという言葉は1996年にガートナーが発表した調査レポートに登場し、IT業界では2000年代前半に注目を集めた。その背景には、企業のITシステムが1社単独でも複雑になる中で企業の合併や再編が相次ぎ、複雑なシステム同士をさらに統合、連携させなければならないという課題があった。
その2000年代前半から10年以上が過ぎた2010年代後半に、自動車業界がサービス指向アーキテクチャによるクルマづくりに取り組もうとしている。では、サービス指向アーキテクチャでクルマのどこがどう変わるのか。
ECUは2種類に
まず、セントラルゲートウェイとドメインコントローラー、ドメインコントローラーにぶら下がる各ECUで構成するE/Eアーキテクチャから、高性能コンピュータのECUとそれにひもづく「小さなECU」の2種類による構成に移行する。
VWは、この高性能コンピュータのECUに「In-Car Applikation-Server」と命名。また、Robert Bosch(ボッシュ)は、2000DMIPS以下のセントラルゲートウェイの処理性能を4万〜50万DMIPSに引き上げ、車載ネットワーク全体の統合管理から自動運転に必要なアルゴリズムの処理まで1つのコンピュータに任せるロードマップを描いている(※4)。
(※4)関連記事:つながるクルマは、ECUとワイヤーハーネスが少なくなる?/ボッシュがNVIDIAと自動運転用コンピュータを共同開発、量産は2020年代初頭
この高性能コンピュータは「設計時に設定された処理をこなすだけでなく、タスクの構成などを動的に変更する役割を担う」と、エレクトロビットの担当者が予測する。反対に、「小さなECU」はセンサーやアクチュエーターの入出力のみ処理を担当し、従来のECUよりも性能を落とせるようになると同じ担当者は説明する。また、「小さなECU」の中身は特定の機能に対応したソフトウェアではなく、事実上からっぽになる。
こうしたECUの構成とすることで大きく変化する機能の一例は、自動運転システムのフェイルオペレーションだ。システムやECUに異常が発生し、一時的に低下した冗長性を元の水準に回復させることができるようになる。
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