IoTの“民主化”をさらに進める強力タッグがここに誕生!:密につながるSORACOMとAzure
日本の製造業におけるIoT導入の機運が急速に高まってきた背景には、システム構築と運用の基盤となるクラウドサービスの普及と低価格化がある。これをさらに加速させる動きとして注目されるのが、ソラコムとマイクロソフトのパートナーシップにもとづいたIoT通信プラットフォーム「SORACOM」と「Microsoft Azure」の連携強化である。
この2、3年で日本の製造業の間にもIoT(モノのインターネット)導入に向けた機運が急速に高まってきたといわれる。IoTの基盤技術そのものは、M2M(Machine to Machine)のコンセプトで早くから工場内で実践されてきたものと大差ないわけだが、ここにきてより高度な価値創造を目指すIoTへと弾みがついた背景には、システムの構築と運用の基盤となるクラウドサービスの普及と低価格化が大きな要因となっている。これらをさらに加速させる動きとして注目されるのが、ソラコムとマイクロソフトのパートナーシップにもとづいたIoT通信プラットフォーム「SORACOM」と「Microsoft Azure」の連携強化である。
IoTの裾野を一気に広げたSORACOMの衝撃
いざ工場内のさまざまな機器やセンサーデバイスをクラウドに接続しようとすると、さまざまな課題に直面する。どのようなプロトコルでデータを送ればいいのか、その際のセキュリティをどうやって担保するのかといった問題だ。
こうしたコネクティビティに関するハードルを下げ、IoTの“民主化”を推進してきたのがソラコムである。同社のシニアエンジニアである松井基勝氏は、「IoTによってさまざまなデバイスが取得したデータを活用する際の最大の課題が“通信”です。ソラコムは、3GやLTEといった携帯電話通信網、LoRaWANやSigfoxなどのLPWA(低消費電力広域)ネットワークなどのIoT無線通信と、クラウド上のコアネットワークによるクラウド連携、セキュリティ強化、デバイス管理などを一貫してサポートするプラットフォームでこれらの課題を解決します。リーズナブルでセキュアなIoT活用を迅速に実現できるのです」と自らのミッションを語る。
同社が一躍脚光を浴びる原点となったのは、2015年9月にサービスを開始したIoT向けデータ通信サービス「SORACOM Air(現在の名称はSORACOM Air for セルラー)」である。3G/LTE回線に対応したデータ通信SIM(Air SIM)をIoTデバイスに挿すだけで、WebコンソールやAPIを介したユーザー認証の設定/運用、各種設定の変更、通信量の監視などの一元的な管理と制御を行える。SIM1枚を1日あたり10円から利用できるリーズナブルな価格設定も衝撃的だった。
実際、このSORACM AirによってIoTの裾野は格段に広がった。クッキーやせんべいに印刷をほどこす可食プリンタを製造販売するニューマインドでは、遠隔から稼働データを取得し安定運用に役立てている。老舗の羊毛紡績及びインテリア産業資材メーカーであるトーア紡コーポレーションでは、工場内の既存PLC(Programmable Logic Controller)の使用電力量を見える化し、現場主導で電力のピーク抑制を実現した。
また、日本の企業がグローバルで利用するケースも増えている。IHIではグローバルに設置されたガスタービンを東京・豊洲のセンターからの遠隔メンテナンス可能にしている。AGC旭硝子では海外を含む工場の作業をオンタイムで見える化し改善に活用している。
「IoTにかかるコストが下がったことで今まで使われてなかった現場や中小企業でも活用は拡がっていますす。自社の改善に使うだけではなく、製品に通信機能を付与することで、お客さまに新たな付加価値サービスを提供する企業も増えて来ています」と松井氏は語る。
短期間でのIoTのプロトタイプを可能にするオールインワン通信デバイスも
IoTの民主化をさらにリードしていくという観点から、ソラコムの新しい取り組みとして松井氏が紹介するのが、LTE Cat.1モデム搭載済みのIoT用途のリファレンスデバイスとして販売を開始したSeeed社の「Wio LTE」である。
これまで、「Arduino」や「Raspberry Pi」などの安価な開発基板をクラウド側のシステムと連携させるためには、Wi-FiやBLE(Bluetooth Low Energy)を経由して無線ルーターと接続する、あるいはUSB接続が可能なセルラー通信モデムを利用するといった方法が用いられてきた。
ただし、Arduinoは取り付けられるセンサー数が多く、手軽に開発できるといったメリットはあるものの、セルラー通信まで行うにはかなりの作り込みが必要となる。一方で組み込みLinuxが動作するRaspberry PiはUSB/LTEドングルモデムによって簡単に3G/LTE通信を行うことができるが、逆にセンサーを取り付けるGPIOの操作やOSの準備に苦労が伴う。
これらに対してWio LTE は、センサーを簡単に取り付けられるGroveコネクターおよびArmベースのマイコン、LTE通信モジュールをオールインワンで実装している。加えて日本国内の電波法令で定められた技適を取得済みのアンテナまで標準添付されているので、このモジュールが1つあればすぐにLTE通信を始められるのだ。
松井氏は「Wio LTEはECサイト経由で1個から購入することが可能です。もともとハードウェアの扱いに関して豊富な経験と高いスキルをもつ製造業のお客さまであれば、このモジュールは簡単に使いこなすことができます。スマートファクトリーや新しいサービスモデルづくりなど、さまざまなアイデアを実証するためのプロトタイピング用デバイスとして活用していただければと考えています」と説明する。
ちなみにソラコム社内においても、このWio LTEの話題は沸騰しているようだ。社員が個人的にこのモジュールを購入し、プライベートな生活や趣味で楽しむ他、日々の業務で抱えている困り事の解決を図るなど、多くの社員が思い思いの視点からデジタルトランスフォーメーションに向けた多彩なアイデアを温めているという。
「SORACOM Funnel」を利用した「Microsoft Azure Event Hubs」への接続
もちろんIoTシステムの構築と運用で欠かせないコアネットワークとなるSORACOMプラットフォームのサービスについても、急ピッチで拡充が進んでいる。
なかでも注目したいのが、マイクロソフトが運営するクラウドサービス「Microsoft Azure」との連携強化だ。例えば、既に「Microsoft Azure Event Hubs」に対応した接続サービスとして「SORACOM Funnel」がある。IoTデバイスから収集したデータを特定のクラウドサービスに直接転送する、いわゆるクラウドリソースアダプターとしての役割を担うサービスだ。Microsoft Azure Event Hubsおよびその接続先のリソースを指定するだけで、データを簡単にインプットすることができる。
これまでIoTデバイスからAzureをはじめとするクラウドサービスにデータを送信する場合、IoTデバイスにSDK(ソフトウェア開発キット)をインストールして必要な機能を作り込むか、クラウドサービスに対してデータを中継するためのサーバを独自に設置しなければならなかった。いずれのケースもパスワードなど認証機能をデバイス側に実装する必要があり、外部からのサイバー攻撃をどこまで防ぎきることができるか、セキュリティが懸念されるところでもあった。
SORACOM Funnelを利用すれば、上記のような作り込みやサーバの設置は不要になるとともに、認証機能についてもソラコムのコアネットワークに預けてセキュアに運用することができる。「お客さまは最小限の手間で、迅速にクラウドサービスを利用することができます」と松井氏は強調する。
また、Azureの仮想マシンをはじめとするクラウドサーバへの接続情報は、SORACOM Funnelで標準提供されるWebコンソールもしくはAPIを利用し、SORACOM AirのSIMごとにあらかじめ設定されたグループ単位で管理することができる。これにより、本番環境にトラブルが発生していったん開発環境に戻すといったクラウドサーバの切り替えが生じた場合でも、IoTデバイスの接続先を一括して変更することができる。あちこちに分散配備されたIoTデバイスに対して、個別に再設定を行うといった煩雑な手間の発生を避けることができるのだ。
「SORACOM Beam」に新たに「Azure IoT Hub接続機能」を追加リリース
ソラコムとマイクロソフトのパートナーシップはさらに強化が進んでおり、2018年1月にリリース予定の「Azure IoT Hub接続機能」によってAzureと「SORACOM Beam」の連携が実現する。
SORACOM Beamを簡単に説明すると、従来IoTデバイス側で実行させていた負荷の重い処理をクラウドにオフロードするサービスである。機密性の高いデータを転送する際に必須となる暗号化処理も、SORACOM Beamによって負荷軽減が可能となる。IoTデバイスの限られたリソースでは難しかった暗号化処理をSORACOMのリソースを利用して肩代わりするのである。
併せて通信量を削減できることも大きなメリットだ。データを暗号化すると必然的にサイズが増大する。特にIoTデータの場合、もともとのサイズは数バイト程度であるにもかかわらず、それを安全に送るために暗号化すると数百バイトに膨らんでしまうといったことが起こる。こうした通信量の無駄な消費を抑えることができるのだ。なお、IoTデバイスからSORACOM Beamエンドポイントまでの間は、3G/LTEの閉域網を通じてデータをやりとりするためセキュリティは保たれている。
松井氏は「SORACOM Beamを利用することでIoTデバイスの処理負荷が下がり、ひいては消費電力も削減します。加えてモバイル通信コストも節約できるという、一石で何鳥ものメリットを得ることができます」と語る。
また、先述したSORACOM Funnelとの違いとして、SORACOM Beamはクラウドサービスに限らず、オンプレミスやプライベートクラウドに設置されたサーバと接続できることも大きな特長となっている。IoTデバイス側からのデータの送信先をSORACOM Beamに固定したまま、その先で任意のサーバに接続することができるのだ。こうしたサーバの接続情報もSORACOM Beamで標準提供されるWebコンソールまたはAPIを利用して一元管理することができ、SORACOM AirのSIMをもとにしたグループ単位で柔軟に接続先を切り替えることができる。
もう1つ、SORACOM Beamならではのメリットとして特筆しておきたいのが、パブリッシュ/サブスクライブ型モデルを採用したMQTT(Message Queueing Telemetry Transport)プロトコルのサポートである。メッセージの送信側をパブリッシャー、メッセージの受信側をサブスクライバーに分けてメッセージを中継する方式で、IoTデバイスとクラウドサービス間の低遅延かつ双方向の通信を容易に実現することができる。
「例えば、IoTデバイスから収集したデータをAzure上の機械学習機能(Azure Machine Learning)などを使って分析し、その結果を再びIoTデバイスに返して稼働条件の変更や制御などを行うことが可能となります。なお、MQTTでやりとりするメッセージは、PC並みの処理能力を備えたゲートウェイクラスの機器だけではなく一般的なマイコンでも実行可能です。そういった意味でも、SORACOM BeamはIoTにうってつけのサービスと言えます」と松井氏は語る。
次のステップとして閉域網との接続を検討
今後もソラコムはIoTの“民主化”を進めるために全方位外交でビジネスを展開していく考えだ。「どんなクラウドサービスでも、どんなサーバでも、オンプレミスも含めてお客さまが望む場所に、データを安全かつ確実、低コストでお届けすることがソラコムの一貫した使命です」と松井氏はあらためて語る。そして「その意味でもマイクロソフトとソラコムのパートナーシップが深まり、AzureとSORACOMプラットフォームの連携強化が進むことは、私たち自身が強く望んでいたことです。これまでIoTの導入をためらっていた企業における変革に向けた取り組みを後押ししていくきっかけとなるでしょう」と強調する。
実際、日本の製造業は多様なデバイスの取り扱いには長けているが、クラウドサービスの利用に関しては経験が浅いこともあって知識が乏しいことが多い。このため、明確なテーマを有していているにもかかわらずIoTの導入に踏み切れないケースが少なくなかった。そうした中、SORACOM FunnelやSORACOM Beamなどによる接続サービスで可能となるIoTデバイスとAzureの連携は、クラウド利用に対するギャップをノンプログラミングで埋めることができる有力な選択肢となるだろう。
さらにその先でソラコムが検討を進めているのが閉域網との接続だ。特に日本の製造業の場合、外部に出せないデータを扱う基幹系やOT(制御技術)系のシステムをオンプレミスで運用しているケースは極めて多い。IoTデバイスからそれらのサーバにプライベートIPアドレスで直接したいという要求も当然のこととして発生する。「お客さまの動向やニーズの変化を常にキャッチアップしつつ、的確な時期にサービスメニューの拡充を図っていきます」と松井氏は語り、SORACOMプラットフォームのさらなる進化を示唆した。
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日時:2018年2月14日(水)10:00〜12:00(受付開始9:30〜)
場所:日本マイクロソフト セミナールーム
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提供:日本マイクロソフト株式会社
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