AI活用製品を開発するのに超えるべき4つの阻害要因と、必要な基盤技術:AI製品開発の現場
製造業にもIoT化による「モノ」から「コト」へのサービス化の動きが広がりを見せる中、AI技術を活用した新製品、新サービスの開発に関心が集まる。しかし「AI機能を搭載する」といっても簡単なことではない。AIを有効活用し効果的な付加価値を創出するには、超えるべき4つの阻害要因があるからだ。
AIビジネス拡大の障害となる4つのポイント
IoT化が広がりを見せる中、収集したデータを活用し新たな価値創出に結び付けていくのに欠かすことができないのがAI(人工知能)機能だ。新製品開発においてユーザーとの接点で生まれる画像や音声などを「認識」したり、「分類」を行うなど、AIの活用は必須となっている。
これらの動きを象徴した製品の1つがスマートスピーカーである。対話型のAIアシスタントを搭載したスピーカーで、音声操作によってインターネットと連携し、音楽再生や情報検索、ショッピングなどのサービスを利用できる。ブームの火付け役となったのは2014年11月にAmazon.comが発売した「Echo」だが、注目すべきはその後のライバル企業の動きだ。Google、LINE、Appleといった企業が同種のプロダクトとサービスを展開し、猛スピードで追随している。
こうした「AIによって切り開かれる新たな市場の主導権を握る」という動きは、IT系の企業だけにとどまらない。自動車、医療機器、カメラといった製造業の間にも確実に広がっている。伊藤忠テクノソリューションズ(以下、CTC)製品・保守サービス本部 AIビジネス推進部の部長を務める照井一由氏は「日本でもアーリーアダプターに位置する企業では研究・開発部門が主導し、AIを中核技術に据えた新製品やサービス、事業の立ち上げを開始しています」と語る。
ところが、製造業における実態はどうだろうか。多くの企業における典型的なAIの進め方を見てみると、AIに強い興味は持っているものの、投資対効果の“程度”を図りかねている状態だ。製造業では単独でAIプロジェクトを遂行できるノウハウがないため、外部のITベンダーにデータを預け、学習を委託し、効果を検証するPoC(概念実証)から始めるのが一般的となっている。しかし、こうした流れで進んだPoCの多くは失敗する。その要因として「AIビジネスに必要な4つの要素がそろっていないからです。すなわち、これらの要素そのものが4つの阻害要因にもなっているのです」と照井氏は指摘する。
AI開発は大きく「データ準備」「学習(AIによるモデル作成)」「推論(学習済みモデルの製品への実装および実行)」というプロセスからなる。「AIを活用する」というと、まず目が向けられるのは機械学習や深層学習などの数式的なモデル(アルゴリズム)だ。その効果や精度を確認するところまではPoCで満たすことができる。しかし、それだけで現実のビジネスにブレークダウンすることはできない。「アルゴリズムはAIを構成する1つの要素に過ぎません」と照井氏は語り、アルゴリズムと共にAIビジネスの鍵を握る次の3つの要素の重要性を説く。
まずは学習に用いる「データ」だ。例えば自動運転を目指すのであれば、全世界を網羅した大量の路上データが必須となる。もちろん同一地点でも天候ごとのデータが必要だ。
次に「タレント」である。「アルゴリズムとデータを使いこなしてAIを学習させる知識・能力」、さらにビジネス課題の解決において「AIでは足りない要素を補う知識・能力」という大きく2つの素養をもった人材が求められる。
そして3つ目が「コンピュテーション」である。AI開発では大量のデータをアルゴリズムに投入し、学習を行う必要がある。これには従来とは桁違いの高速な計算処理や大規模なデータ処理が必要となる。これらをどう準備していくのかという観点が欠かせないのだ。
AI開発に必要なインフラをまとめて提供
AIビジネスに踏み出そうとする企業は、どうすればアルゴリズムに加えてデータ、タレント、コンピュテーションといった要素を獲得できるだろうか。
企業にとってまず大きな負担となるのはコンピュテーションだ。先述した通りAI開発には従来とは桁違いの高速な計算処理や大規模なデータ処理が可能なスケーラブルなITインフラが必要とされる。企業にとっては下準備であるこのITインフラの整備に多大な投資と時間が費やされ、本来のテーマであるAI開発にリソースを集中できないという泥沼に陥ってしまうのだ。
「例えば画像や音声の学習を行う際にGPUを活用するケースが増えていますが、具体的に何個のGPUを調達したらよいのか。データを保管するストレージはどのようなアーキテクチャをベースに構成を組み、どの程度のI/O性能を確保したらよいのか。また、クラウドを利用する場合のセキュリティはどうやって担保できるのかなど、全てを手探りで検討を進めなくてはなりません。ここで多くの企業が頭を悩ますケースが見られます」と照井氏は語る。
こうした課題をまとめて解決しようとCTCが2017年10月より提供を開始したのが「CTC Integrated AI Platform Stack(CINAPS:シナプス)」である。マイクロソフトの「Microsoft Azure」を基盤としたハイブリッドクラウド環境で、AI開発に必要なストレージ、計算リソース、運用ツール、フレームワークまでインフラスタック一式をレディ状態で提供するものだ。ちなみにMicrosoft AzureではGPU機能をもった仮想マシンを「Nシリーズ」として提供しており、データ処理の負荷状況に応じて柔軟に調達することが可能だ。AI開発に必要なスケーラブルなITインフラをスモールスタートで導入できるのである。
これらのAIインフラの設計内容は全てCTCの国内最大級の検証施設である「CTCテクニカルソリューションセンター」で選定され検証済みとなっている。さらに留意すべき設計ポイントを含んだ構成をテンプレート化して短期間での導入を実現する。
CTC 流通・EP第2本部 ソリューション企画営業部の宗像孝幸氏は「CTCでは2016年から数十件を超える顧客のAI導入案件を手掛けており、そこでから得たAIインフラ構築の技術的ノウハウを体系化してCINAPSに盛り込んでいます」と説明する。すなわちAI開発の4大阻害要因の1つである「タレント」の一部もCINAPSがサポートするわけだ。そして「もともとB2B領域で豊富な導入実績をもつMicrosoft Azureをベースにしたことからセキュリティや安定稼働に対する信頼も高く、多くの製造業の顧客からお問い合わせをいただいています」と宗像氏は強調する。
1つの例を紹介しよう。ある製造業は1年ほど前からAIによる画像認識技術を活用した新製品の開発プロジェクトに着手し、商品化を決定した。さらに、このプロジェクト以外にもAIを活用した新事業や新製品開発の企画を同時並行で進めており、マルチテナント型のAI学習環境の構築を検討していた。
そうした中で想定されたのが、「スケールアウト可能なGPU基盤」「画像学習特有のランダムリード・ライトに強いストレージ設計」「Dockerなどのコンテナ型仮想化による多数のユーザーでの共有」「KubernetesなどによるDockerのオーケストレーション」「オンプレスおよびパブリッククラウドの両方に対応」「マルチテナント環境でのアカウント管理の実装」「複数拠点間での学習用データのバックアップ」といったシステム要件だ。この課題の全てにCINAPSは対応したのである。
教師データ作りを支援するアウトソースサービスも始動
さらにCTCは2017年12月、AI開発におけるもう1つの阻害要因である「データ」の整備に関する負担を軽減すべく、AIベンチャーの株式会社グリッドと協業。データプレパレーションのアウトソースサービス「tag.ai(タグ・エーアイ)」の提供を開始した。
データプレパレーションとは、AIに学習させる際に使用する教師データの作成プロセスを指す。特に画像認識の分野では、画像のどの部分に何が写っているかということを人の手によって“タグ付け”を行う作業が必須となる。しかし、膨大な画像データの中で認識したい対象物や項目が無数に存在するため、AI開発全工程の約80%の時間がこのデータプレパレーションにかかるとも言われるほど、教師データの作成には多大な手間を要する。人件費の高いデータサイエンティストやプログラマーに作業を任せると非常に高コストとなってしまうことなどから、AI開発企業がデータプレパレーションを内製化出来ず、AI開発に進めないという状況に陥っている。
「tag.ai」では、インドネシアのトップレベルの大学生を雇用してAI教育を行い、タグ付け作業を実施することで、従来よりも短期間かつ低コストのデータプレパレーションを実現させる。また、グリッドからブリッジエンジニアを現地に派遣し、細かなチェックを行うことで、実用可能な高品質・高精度の教師データづくりを支援するという。グリッドが独自開発したデータ加工ツールを使用することで、業種ごとに求められるデータの特徴を捉えて多種多様な教師データを作成し、利用用途に応じたプレパレーションを行うことが可能となる。さらに以降のプロセスでも「作成した教師データの活用法を示すと共に、学習からシステム構築、運用サービスまでをトータルにサポートします」と照井氏は語る。
R&Dから得たノウハウをAIコンサルティングに反映
ここまで紹介してきたCINAPSやtag.aiといったサポート体制の拡充を進める一方、CTCは自らも積極的なR&Dに取り組んでいる。AIの活用で注目を集める自動運転や、医療における診断支援、ロボットなどを活用した産業分野や農業など、さまざまな個別ソリューションの研究開発を進めていく。さらに、ここから得たノウハウもまた企業の「タレント」を支援するAIコンサルティングに反映する方針である。
CTCではAI開発に関する課題を包括的に解決しAI活用基盤を一括で提供できる体制を構築。日本の製造業をターゲットとしたAIビジネスの活性化を後押ししていく方針を示している。「日本の将来のためにも製造業の成長は重要です。グローバル市場で競争力を高め、さらなる存在感を発揮していくためにもAI活用製品の早期の開発にチャレンジするべきです」と照井氏は述べている。
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アイティメディア営業企画/制作:MONOist 編集部/掲載内容有効期限:2018年2月23日